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慶應義塾大学 環境情報学部2015年【問い】
Ⅰ. 環境情報学部は、最先端のサイエンス、テクノロジー、デザインを駆使し、柔軟に人文、社会科学と融合することによって地球、自然、生命、人間、社会を理解し、未解決の問題に取り組み、解決策を発明・創造する学部です。まず、「発明や創造」について考えてみましょう。
資料【A】〜【H】は、過去から現在までの、何らかの発明や創造と、その社会展開に関する文章です。有形のモノから無形のコンセプトまで、情報のテクノロジーから物質のデザインまで、小スケールから大スケールまで、さまざまな種類のものを、時代順はランダムに並べています。
設問1
資料をよく読んだうえで、【A】〜【H】それぞれの文章について、その発明や創造の内容と、それが社会に与えた影響を表現する、わかりやすいタイトルと魅力的なサブタイトルをつけてください。
Ⅱ. 湘南藤沢キャンパス(SFC)では、「問題が与えられて、正解を教わる」教育ではなく、「何が問題なのか考え、解決する方法を創出する」人材の育成を目指しています。そこで、次に、「問題発見」について考えてみましょう。
2015年のいま、国内外でさまざまな問題が議論されています。たとえば、世界経済フォーラム(World Economic Forum)は、2014年に次の5つの課題領域をあげて、問題群を分類しています。(以下、中略)
ただ、この(a)〜(e)は、あくまで世界経済フォーラムの分類であり、検討すべき課題領域のすべてが網羅されているわけではありません。また、大切なことは、課題領域のなかから、より具体的な問題を適切に発見・提起し、それを掘り下げていくことで、問題の本質に近づくことです。
設問2
あなた自身が重要だと考えている、「課題領域」とその課題領域における「未解決の具体的な問題」をひとつ記述してください。「課題領域」を(a)〜(e)から選ぶ必要はありません。
Ⅲ. 最後に、設問2であなた自身が重要だとした「問題」の未来について、考えてみましょう。
いま2045年の未来社会にいることを想像してください。あなたは、SFC在学中から約30年のあいだに、出会った仲間と連携しながら、独自の視点で問題を発見・提起し、最先端のサイエンス、テクノロジー、デザインを学んで斬新な解決策を着想、実装し、その成果を広く社会に展開してきました。そして、別の新しい問題が立ちはだかったとしても、仲間と一緒に知恵を出し合えば、必ず解決できるという自信に満ち溢れて過ごしています。
そのようなあなたのもとに、環境情報学部長から公式の依頼が届きました。若い世代から尊敬される発明家・創造者であるあなたに、湘南藤沢キャンパス(SFC)で90分間の記念講演をしてほしいという依頼でした。あなたはさっそく準備に取りかかろうとしています。
設問3−1
まず、講演の告知文を考えます。あなたが取り組んできた問題と、独自に生み出した発明や創造との関係性を、わかりやすく、かつ魅力的に告知する文章を考え、140字以内で記述してください。
設問3−2
次に、当日配布する講演資料を執筆します。あなたが生み出した発明や創造がどのような原理や仕組みに基づいており、どのように実装されたものであり、どのような人々にどのように活用されており、どのような問題を解決したものであり、約30年のあいだにどのような方法で社会に展開し、その過程でどのような出来事が起こり、ぶつかった壁をどのように乗り越えて来たのか等を、具体的にふりかえりながら整理し、1000字以内で記述してください。
執筆にあたっては、設問1で読んだ資料【A】〜【H】から学べる要素を適宜取り入れつつ、あなた自身のストーリーとしてまとめてください。
なお100字相当分以内であれば、説明の補助のために絵や図を加えることもできます。解答欄に、たとえば10×10や12×8のように領域を区切って、そのなかに記入してください。絵や図を使用するかしないかは、あなたが決められます。
慶應義塾大学 環境情報学部2015年【答案例】
設問1
資料(タイトル/サブタイトル)
A 日本の自転車のはじまり、発展、輸送の拡大/革新のカギはフリーホイールが握っていた!
B インターネットの登場/世界にひとつ、世界はひとつに。
C 半導体ヘテロ構造の発見/LED,レーザー作成を陰で支える!
D 3Dプリンター、RepRap/有機的な自己再生産を行うキカイ。
E クリエイティブユースって何?/ソーゾーリョクを、取り戻す。
F コールドチェーンを支えたフロン/彼はヒーローではなく悪人だった。
G 公開鍵暗号/デジタル革命、生んだのは社会のエッセンス
H 行政サービスの電子化/サトゥヤーンの提案、「人任せ」の効果はいかに!
設問2
課題領域 エネルギー
未解決の具体的な問題 日本の電力自給率が他国に比べて低いこと。
設問3-1
諸君、貧乏ゆすりをするか?もしするのなら、君達には未来を変える力があることを約束する。私は貧乏ゆすりの振動を電気に変換できるマットを開発した。これにより各家庭での気軽な発電が可能になり、我が国の電力自給率が低いという問題は解決された。もはや貧乏ゆすりではなく、富豪ゆすりなのだ。
設問3-2
私が開発した発電マット「富豪ゆすり君」(以下マット)は貧乏ゆすりの振動によって生まれたエネルギーを電気に変換するというものだ。詳しい仕組みは難しいのだが、水の高低差によって生じるエネルギーを利用して電気を生んでいる水力発電とほぼ同じと考えてもらえればよい。すなわち、マットの上でジャンプをし続ければ貧乏ゆすりをするよりも多くのエネルギーを得られるのだ。もっとも、継続できればの話だが。
実装方法についてだが、発電の仕組みを除けばただのマットなので、椅子に座って作業するといった時に足下に置くだけだ。
このマットはその手軽さにより老若男女が使えるものとなった。また発電という機能以外は極力削ぎ落としているために本体は安く、貧困層であっても自家発電ができるようになった。活用の方法は、まず前述の通りマットを足下に置き貧乏ゆすりをする。マットのランプが点滅したら充電完了。それをコンセント代わりに使用するだけ。
このマットは、日本の電力自給率が低いという問題の解決をした。もともと日本は電力自給率は8%程度と非常に低く、発電の為の資源に国がお金を出して輸入することで電力をまかなっていた。しかしこのマットの登場により電力自給率は40%にまで上昇。そして副産物的に上昇分の発電に必要な資源輸入が不要になり、余った資金により内部経済の活性化まで起きた。
だが、これまでの30年は長かった。マットの開発から10年目でさらなる電化製品の増加による発電効率化を求められ、それが解決し発電効率を向上させた20年目には電力会社からマットの販売停止をせねば裁判を起こすという半ば脅しのようなものも受けた。しかし、その度私は大学時代に理工学部で機械工学を学んでいた友人の力を借りて壁を乗り越えた。前者の課題は彼と一緒にマットの感圧装置を見直し、連日徹夜で作業をした。後者については「マットの発電量制御が可能な装置を作りたい」という私のアイデアを彼が叶えてくれた。私達はその装置を電力会社に売り、これで私が奪った電力会社の儲けはいくぶん回収できると説明した。現在はその装置で得たお金で何をしようか考えているところだ。
慶應義塾大学 環境情報学部2015年【解説】
SFCの小論文については、問題文や序文を良く読んだ上で、小論文を作成するということがもっとも大切
なので、まずは序文を確認します。
「環境情報学部は〜」から始まる文を見ると、「過去から現在までの」という部分があります。すなわち、自分が答案において発明の話を書く時は、
過去から現在の流れを、詳細でなくとも良いので時系列に沿って記すのが良い
、ということを心に留めておきましょう。
つぎに問題文を読み込みます。
設問1を読むと「発明や創造の内容」「それが社会に与えた影響」を表現する「わかりやすいタイトル」と「魅力的なサブタイトル」を答えよ、とのこと。
このように、
問題文を読んだら、問いの論点、すなわち「何を聞かれているのか」を箇条書きでメモすることは、SFCの小論文においてとても大切な行動
です。なぜなら、問いの論点を満たさない答案は、大幅な減点を余儀なくされるためです。
今回は、特に「魅力的なタイトル」について注目します。「魅力的」というものは非常に主観的なものであり、自分が魅力的だと感じても他人にはそう映らないこともあります。それは受験においても同じであり、受験者が魅力的なタイトルを作ったと思っても、採点官がそう受け取るという可能性は高くありません。
そのため、ここではとにかく
「魅力的に見せるために頑張った痕跡」を見せることが大事
です。例としては倒置法を用いたり、!マークを用いたり。おそらく、慶應側の採点基準としても「魅力的」ではなく「魅力的に見せようとした痕跡があるか」などの間接的な指標が用いられていると思います。
発明や創造の内容については、資料文を読解して主題となるキーワードが入った短いフレーズであれば何でもよいです。どちらにしろこの設問の得点比率は低いのであまりこだわりすぎないほうが良いです。
設問2に移ります。
この問題文では「あなた自身が重要だと考えている『課題領域』」と、「その課題領域における『未解決の具体的な問題』」を書けば良いのだと分かります。
ここに関しては個人の発想力や知識が大きいです。また、設問3と地続きになっているということに留意した上で、設問3から逆算して考えます。設問2で全体像を掴まないままテーマを設定してしまうと、設問3で話を広げる際にかなり苦しい答案になってしまうので、設問3で先に考える→その主要素を書き出す、という形で機械的に答えを出すことを考えましょう。
設問3について。
二つ問題がありますが、設問2,3のように3-1,3-2には「後ろから」考える姿勢が必要になってきます。
先に3-2を見て、要求を箇条書きします。書かなければいけないことは、
「生み出した発明/創造がどのような原理や仕組みに基づいているか」
「どのようにそれが実装されたか」
「どのような人々に」
「どのように活用されており」
「どのような問題を解決したものであり」
「約30年の間にどのような方法で社会に展開し」
「その過程でどのような出来事が起こり」
「ぶつかった壁をどのように乗り越えてきたのか」
を、「具体的に」振り返り、説明せよとのこと。あとは自分で考えたアイデアをまずはこの箇条書きの答えとして落とし込んだ上で、それを繋げて答案を作ります。
この時に5つ目の「約30年の間にどのような方法で社会に展開し」に注目します。SFCから明確に30年という指標が与えられているということは、この数字を使うべきだということです。詳細なものは必要ありませんが、少なくとも10年単位での事の動きを書くことは必要です。この年度に限らず、SFC小論文において設問の指定に具体的な数字が使われているのならば、その数字は活用するように答案を作ることが大切です。
ここについて考えた後、3-1の問題について考えます。問題文には3-1に「まず」3-2に「次に」とありますが、問題の大小、箱の大きさについて考えた際、3-2から取り組むほうが書きやすいと私は感じました。ここは個々人の感覚の問題なので一概には言えませんが、基本的にはボリュームのある問題から処理していくことをおすすめします。
3-1について、問いの論点の箇条書きを行うと、
「告知文」
「取り組んできた問題」
「それと、独自に生み出した発明や創造との関係」
「わかりやすく、かつ魅力的に」
「140字以内」
となります。3-2で満足の行くものを作れていたならば、あとは3-1に落としこんで書くだけです。これを、詳細がおぼろげでも書くことが可能な3-1から進めると、3-2で話を広げる時に新たな設定をする必要が出てきて、その後に3-1と矛盾してしまい….といったことが起きかねません。
最後に、この設問には「必要であれば絵や図を用いてもよい」とありますが、これに関しては「図を使わないと説明するのが難しいもの」以外では、図を使わないほうが無難です。基本的には、文字で説明するスタンスと取るべきだと思います。その場で、ユニークな絵や図が閃いたのなら描くべきですが、そうでない限りはこれまでの学習通り、文字で説明をすることに貴重な試験時間を費やすべきでしょう。「文字数足りないから、絵や図を使って水増ししよう」などといった考えで使うと痛い目を見ます。大学の先生方は、そんな答案に高得点を付けるほど甘くはありませんので、ご注意ください。