この記事の目次
慶應義塾大学 環境情報学部2013年【答案例】
問1 400字
私が学んだ身体知は「絶対音感」である。私は中学入学と同時にバイオリンを始めた。バイオリンの練習前にはチューニングを行うが基準とする音は440Hzのラの音である。初心者のうちは音叉の音と自分の弦を弾いた時音の差から生まれる唸りがなくなるようにチューニングする方法をとった。数年が経つと音叉を聞かずともラの音が頭の中でイメージできるようになった。さらにバイオリンを弾いたことで、12音階全ての音をイメージできるようになったのである。こうして、私は音楽に限らず日常生活においてもあらゆる音を聞いた時にバイオリンだとどの場所を押さえればなる音か判断できるようになり、階名で答えられるようになったのである。この身体知の獲得方法は音の高低を物理的な位置と対応させたことによるものだ。したがって、色調など連続的に変化する性質を持つ何かしらのものと音の高低を対応させれば、私の方法とは異なる方法で身につけられる可能性がある。
問2 400字
私自身の身体知を大きく向上させる新しい方法として、光の波長の長短と音の高低を対応させる方法を提案したい。私はバイオリンの弦を押さえる位置と音の高低を対応させるようにして音感を身につけたが、例えばソとラの間の音などピッチがずれた部分は身につけることが容易ではなかった。そこで、そのような微妙なピッチにも対応するために色を利用したい。例えば、スマートフォンを横向きにして持ち、数直線のような線を中心に表示する。左端が可視光で波長の最も長い赤色、右端が短い紫色とする。左端から右端にかけて虹がかかっているようなイメージである。その虹の色に触れると、その波長に対応した音がなると同時に、今の階名とそこから何Hzずれているかを文字で表現する。このような方法をとることで、私はピッチのズレにもより正確になれ、より豊かな音楽を奏でられるようになると考えられる。
問3 600字
科目名は「音で世界を見る」とする。履修内容は絶対音感やそれに近い音感を身につけるための音が鳴る基本的な仕組みの学習、問2のような新方法を用いた音感の会得、その音感を通して見えた世界の共有である。この科目を履修することで、音に対してより繊細な身体知を身につけられ、これからの人生における感受性を大きく発展させることができる。想定する学生数は20人程度で評価方法は授業の出席率、態度、最終レポートを総合的に判断した上で、生徒個人がどれだけ能力を伸ばせたかという絶対評価をする。学び方と教え方について、まず教員は学生よりも先に音感を身につけた者として、学生に同様の能力が身に付くようコーチングする。そして学生にある程度能力が身についた段階で、世界の見方がどう変化したかを学生に発表してもらった上で、議論を行う。この段階では、福沢諭吉の唱えた半学半教の精神を引き継ぎ、教員と生徒がフラットに議論する。議論の内容では「音感を身につけて、生活してみたら自分がリラックスできる音楽の多くは実は琉球音階が使われていた」などといった内容が想定される。こうした生徒の気づきに対して、琉球音階でなぜリラックスできるのかを議論したり、調べたりすると深化される。このように教員対生徒の構造を持たない授業形態から、この未来想像塾に必要とされる設備はβヴィレッジの中にあるドームのように、円形の施設が望ましいと考えられる。
慶應義塾大学 環境情報学部2013年【解説】
今回は身体知がテーマでした。
2023年度現在、SFCでは「身体知論」という授業が実際に展開されており、学生たちの間では「ペットボトルを頭に乗せる奇妙な授業」として注目されています。詳細については実際に入学して先輩から聞いてみてくださいね。
問題の解説に入る前に、 なぜ身体知がテーマになったのか考えてみましょう。
慶應義塾大学環境情報学部・総合政策学部(慶應SFC)は、旧来の学問では扱うことが難しかったオリジナルで新しい学問の創造に強いです。
そのため、身体知のようにパッと言葉では説明できないような知識についても学問として紐解いていこうという流れになったと考えられます。
慶應SFCの理念をよく理解している人からすればこうした問題が出題されることは必然であり、自分がその理念を理解していることを、教授たちにアピールできるような問題であったと言えます。
それでは、問題の解説に入っていきましょう。
問1
まず、実際の自分の身体知について記述しなければなりません。
こういった書く対象の幅が非常に広く、答えが一意に定まらない問題はSFCの小論文には多いです。この類の問題の時は、最初に頭の中にすぐに浮かんだ対象で書くことはお勧めできません。
というのも、そのテーマでこの先の問いも記述しなければならないことも多く、行き当たりばったりでは問3のあたりで行き詰まり、また最初から考え直さなければならないケースもあるからです。
そうならないためにも、まずは問には最後まで目を通しましょう。
その上で、アイディアをいくつか出していきます。
今回私は陸上やコンピュータ、音感などアイディアをいくつか出しました。
この中で、問3まで一貫して書くことができそうなものは「音感」と私は判断しました。テーマはこれを読んでいる皆さん次第ですので、どれでも正解です。
テーマが決まったらいよいよ書いていくのですが、今回聞かれているのは以下のポイントです。
- あなたがこれまでに学んだ身体知
- その身体知がどのような経験によって獲得されたのか
- 他に、その知を獲得する方法がなかったのか
そして字数制限は400字ですので、大体最初の2点で300字、残りで100字程度書こうと割合を考えます。文字数がおおよそ決まったら、何文程度になるか頭の中でイメージした上で書いていきます。
この分量の感覚もまさに身体知の部類で、たくさん書けばある程度は身についてきます。
400字ですから1文40字として10文程度で記述できると良いと思います。
文章を書くとき全般のポイントですが「AであるがB、なのでCと言えるからDだ。」というように論理展開を1文で書くと明快には伝わりづらい文章になりがちです。
ですから、「AであるがBだ。」「そのためCと言えるからDだ。」というくらいに分けるとよりわかりやすい文章になります。
問2
この問いはまさにあなたの創造性が求められます。
基本的には、論理が通っていればあなたオリジナルなアイディアを綴れば良いです。しかし、1点注意点があります。
それは「SFCらしさ」を過度に意識しすぎないことです。問題文中でも「必ずしも科学技術にとらわれる必要はありません。」という記述がありますがこれは「ただSFCっぽい言葉を使えば良いというわけではないよ」という大学側からのメッセージなのです。
他の年度の問題でもこのような注意書きがされていることが多いですから、強調したいメッセージなのでしょう。
最近だとよくあるのが、何でも「AI」「SDGs」といった言葉と絡めておけばいいやというような安直な判断が見え透けるような回答です。
慶應SFCが求めているのはあくまでも「問題解決能力」ですから、その能力があることを示せれば十分で、その部分を解像度高く書けるように練習していきましょう。
問3
実は慶應SFCは慶應義塾のなかで最新の学部でありながら、最も慶應義塾の原点に近い教育スタイルを採用しています。これは、入学後の「慶應義塾入門」という科目でも学べますし、福沢諭吉先生の書物からもみて取れます。
詳しくは割愛しますが、こうした慶應SFC設立の経緯や福澤先生の思想、慶應義塾の歴史を学んでおくと問題がスムーズに理解できることも多いです。
文中に記載がありますが、本問題のテーマである「未来創造塾」の設立も上の知識があればすぐに合点がいくはずです。
こうした背景知識を入試本番までに入れた上で、それが伝わるように心がけると良いと思います。
今回は、慶應SFCキャンパス内にある「βヴィレッジ」の話、福澤先生の唱えた「半学半教の精神」の話を盛り込みました。
まとめ
小論文は受験生から教員に送る手紙のようなものです。
そのため、具体的な問いの中でも「私は教員の皆さんが求める生徒ですよ」というメッセージを教員とあなたがわかる共通言語を用いて伝えられれば合格につながると思います。
応援しています。