この記事の目次
慶應義塾大学 環境情報学部2019年【問い】
SFCは、1990年の開設以来、「問題発見/問題解決」の教育・研究を実践しています。
世の中には多くの未解決の問題があります。人口問題や地球温暖化問題のように、広く知られており解決が難しい大きな問題がある一方、身の回りの小さな問題は見逃していることが多く、意外な解決法が隠れていることがあります。(中略)
観察力を磨くことにより問題解決力が高まります。発見した問題についてよく考え、頭の中で熟成させることによって解決方法に気づいたり発明したりできるようになるでしょう。
このような問題発見の方法をふまえ、以下の三つの問いに答えてください。
問1
現在広く使われている身近なものについて、それがなかったときにはどういう問題があり、それがどのように解決されたのかを具体的に解答欄1に横書き320字以内で記述してください。
問2
次ページ以降の資料に、SFCを見学に来たA君とB教授の会話と写真があります。これを読み、会話と写真から問題を三つ発見して解答欄2−1から2−3に記述してください。
・発見した問題は、関係する写真番号とともに文章で記述してください。ひとつの問題を説明するために複数の写真を指定してもかまいません。
・会話や写真に直接関係する問題について書いてください。
・表層的な問題でなく、なるべく根本的な問題を発見してください。
・字数の制限はありません。問3
問2で発見した問題のひとつを解決する方法を考えてください。誰にとっての問題がどのように解決されるかを、解答欄3に具体的に自由な形式で記述してください。
・解答はすべて文章で記述してもかまいませんし、絵と文章を組み合わせて記述してもかまいません。
・「AIで解決する」のような漠然としたものや抽象的なものではなく、実現可能性がある解決方法を示してください。
慶應義塾大学 環境情報学部2019年【答案例】
問1
現在インターネットは広く使われているが、インターネットが存在しなかった頃は、連絡手段が手紙や電話のみであったという問題がある。手紙や電話のみでは、コミュニケーションが地理的な制約からは解放されたものの、依然として時間的な制限からは解放されていない。手紙では相手に届くまでに時間がかかり、電話では相手が対応できる時間でないと情報を伝達することができない。一方、インターネットでは情報が一瞬で伝わる上に、情報を保存でき、情報伝達を地理的、時間的な拘束から解放することができた。このように、インターネットの登場により、情報伝達の可能性を格段に広げることができた。(278字)
問2
・写真1や写真6、写真7について、SFCの学生はSFCに来るまでにバスに乗る必要があるが、バスは混雑することが多いなど、不便が発生している。
・写真5、写真8、写真9、写真20について、SFCには階段が多く、車椅子の使用者や足腰の不自由なお年寄りにとって不便な構造になっている。
・写真10について、就活情報はインターネットなどを用いて簡単に調べることができ、就活情報の看板は必要ないと言える。
・写真2や写真18について、SFCのキャンパスには本来の意図で使われていない建物や、使用目的のわからない建物があるという問題がある。
・写真12、写真13や、写真17にあるように、SFCでは先進的な研究を行なっていが、それらの研究は必ずしもSFCのキャンパスで行う必要はなく、SFCのキャンパスにいくことが面倒だという問題がある。
・現在主な連絡手段は電話やメール、SNSであり、写真15にあるようなポストはもはや必要ないという問題がある。
・写真22、写真25、写真26にあるように、SFCのキャンパス内は、ドアをいくつも通流必要がある他、雨が降った後に道がぬかるむなど、内部の移動に不便な点が多いとい
う問題がある。
問3
SFCのキャンパスには、例えばSFCのキャンパスに行くのにいくつもの交通機関を乗り換える必要があることや、階段や扉が多いなど、いくつもの不便がある。一方で、SFCで行われる研究の中にはわざわざSFCに行かなくとも、自宅で研究できることもある。そこで私は、SFCで行われる研究や授業の一部をオンラインで行うことにより、上記のような不便や、混雑などを解消する方法を提案する。具体的には、実技やディスカッションの授業、大掛かりな設備の必要な研究はSFCのキャンパスで行い、板書のみの講義、文書やコンピューターのみで行える研究を自宅で行う。この方法により、SFCの学生をはじめとした関係者は、わざわざキャンパスに行かなくてはいけない負担や、キャンパス内の混雑を解消することができ、彼らにとってより自由な学びを実践することができる。
慶應義塾大学 環境情報学部2019年【解説】
環境情報学部の2019年の小論文もSFCを代表する小論文の一つで、ここでは丁寧な観察と問題解決のための発想力が要求されます。今回はいかに問題の誘導に従えたかが鍵になったでしょう。誘導付きの問題は他のSFCの小論文でも頻出なので、これを機にぜひマスターしておきましょう。
時間配分
まずは問題を解く手順と時間配分についてオススメの例を紹介します。
Total 120分
1.導入部分と例文の読解(15分)
2.問題文の読解(10分)
3.問1構成と設計図作り(10分)
4.問1解答作り(15分)
5.問2写真の観察(25分)
6.問2解答作り(15分)
7.問3構成と設計図作り(10分)
8.問3解答作り(20分)
1について制限時間がシビアなので全ての例文に目を通す必要はありません。また、問2と問3は関連が強いので、問2の写真の観察で多めに時間をかけ、そこで問3の大まかな指針も決定しておきましょう。その他の注意点としては、絶対に読み違えないように問題文は一番丁寧に読むこと、文章で表現する際には設計図をきちんと書く時間を設けることです。
導入部分と例文
それでは問題文に目を通していきましょう。導入部分で注目すべきなのは「身の回りの小さな問題は見逃されていることが多く」という部分です。解答を作る際はちょっとした不便などに注目するようにしましょう。続いて例文です。
『地下鉄通路』では、先端技術の登場により日々のちょっとした動作が省略されていくプロセスに注目しましょう。インターネットなどの先端技術の進化により、駅の改札や国境、身分などの境界線が段々と薄まっているという視点を持てると解答しやすいかもしれません。
『カップに紐』では日常の小さな不便がデザインによって解決される例が紹介されています。解答では障害者にとっての階段のように、不便なデザインに注目しましょう。
『駐輪場の使い方』では思いも寄らない使い道が発見された例が紹介されています。塩湯方に注目しながら解き進めましょう。
問1
問一では現在広く使われているものがなかった頃と、現在を比較して時間の流れに沿って書くと解きやすいでしょう。現在広く使われているものとしては、インターネットやスマートフォンなどの先端技術系が書きやすく、問題の趣旨にもあっています。ここであまり時間をかけすぎないように注意しましょう。
問2
2019年の山場がこの問2です。写真だけに注目しすぎずに、なるべく広い視野を持ちながら注意深く観察していきましょう。
とはいえ、なかなかキャンパスの問題点は簡単には見つからないと思います。ここで問1と例文に注目すると、先端技術により面倒な動作や、境界線がなくなっていく過程が強調されているほか、デザインや使用目的からアプローチする方法が示されています。
これに気をつけながら写真や教授と生徒の会話に目を通すと、日常と学び、人工的な建物と自然、教授と学生、外と中などに境界線を引くことによる不便が見えてくるはずです。
また、SFCではなくともできること、もはや必要なくなっているものなど、いくつもの無駄も見つかるはずです。発見した問題点についてなるべく簡潔な文章で表現しましょう。
問3
問3では問2で発見した問題を実際に解決していきます。問2で問3を見越した解決しやすい問題を挙げておくとスムーズです。
ここでも問1と例文を意識して、先端技術によって境界線を無くすことで物事をスムーズにしていくプロセスを、なるべく具体的に記述していきましょう。
解答例ではインターネットを用いて自宅とキャンパスの境界線を減らす解決方法を挙げましたが、このような解決方法を見越して、問1でインターネットを、問2で交通の不便をあげておきました。
このような流れに沿った解答作りができるように、他のSFCの過去問も使いながら練習していきましょう。
慶應義塾大学 環境情報学部2019年【講評】
2019年の小論文は典型的なSFCの小論文の例で、大量の資料を読み解いたり、問の誘導に従ったりする必要があり、2018年や2020年ほどではないにしろ、依然として非常に難易度の高い問題でした。
また、内容面では非常に概念的な問題を文章や写真から読み取り、それを具体的な内容に落とし込んで小論文の形で表現するという、非常に複雑な操作が要求されています。
2018年の環境情報学部、2020年の環境情報学部、2020年の総合政策学部で似たような形式が使われているので、それらを用いて対策してみてもいいかもしれません。
慶應義塾大学環境情報学部2019年小論文の解説は以上です。