慶應SFC小論文 過去問答案例・解説

慶應義塾大学 総合政策学部(2024年) 答案例・詳細解説

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慶應義塾大学 総合政策学部2024年【問い】

(問1)5つの資料を全て読んだ後、4つの資料を選択し、それぞれの資料の主題について言及しなさい。その主題に関連づけて、今から10年後の日本について、米国と中国との相対的な関係を展望しつつ、どのような姿になっていると予想されるのか、自分の考えを、800字以内で論じなさい。

(問2)日本政府は、日本経済の活性化に必要なイノベーションを生み出すための施策を推進しています。あなたが政府の政策立案者だとしたら、どのような政策を打ち出しますか。政策を3つ列挙してください。その目的、対象、手法に関して簡潔に書きなさい。

 次に、その3つの政策の内、1つの政策について、なぜそのような考えに至ったのか、その政策によってどのような効果が期待されるのかを説明してください。さらに、その政策がもたらす副作用や弊害などにも言及しながら、説得力ある論理を展開し自分の政策提言が有効だということを説明してください。800字以内で論じなさい。

慶應義塾大学 総合政策学部2024年【答案例】

問1

資料1、3、4、5を用いて、10年後の日本の姿を米中との関係から展望する。資料1は、デジタル化が日本経済の成長を加速させる可能性を示唆している。日本政府もデジタル庁を設置するなど、デジタル改革を推進する姿勢を見せている。資料3は、イノベーション分野で米国と中国の覇権争いが激化する一方、日本の存在感が低下していることを示している。日本は、研究開発投資や研究者数で米中に大きく水をあけられている状況だ。資料4は、デジタル・プラットフォーマーによる寡占化が進み、イノベーションや競争が阻害される恐れがあると指摘している。日本企業も、GAFA等の外国企業に対抗するのは容易ではない。資料5は、ESG投資の拡大など、資本主義のあり方に変化が生じていることを示唆している。短期的利益の追求だけでなく、長期的視点に立った経営が求められる時代になったと言えよう。

これらの資料から浮かび上がるのは、デジタル化とイノベーションを巡る国際競争が激化する中で、日本の立ち位置が危うくなりつつあるという懸念だ。米中両国は、自国の巨大な市場を背景に、デジタル覇権を巡って熾烈な競争を繰り広げている。一方、日本は、少子高齢化による国内市場の縮小や、イノベーション基盤の脆弱さから、存在感の低下が避けられない状況にある。日本企業は、ニッチ分野への特化や、環境・社会課題の解決に資する事業の育成など、付加価値の高い領域に経営資源を集中せざるを得ないだろう。

ただし、日本がデジタル化とイノベーションの潮流から完全に取り残されるわけではない。日本政府も、デジタル改革の推進や、スタートアップ支援の強化など、打つべき手は打ち始めている。重要なのは、官民を挙げて改革を加速し、国際競争に勝ち抜くための基盤を整備することだ。また、日本の強みである「モノづくり」の技術を、デジタル時代に適合するように進化させることも求められる。日本企業が、自前主義から脱却し、オープンイノベーションを推進することも欠かせない。

10年後の日本は、米中を中心とするデジタル覇権争いの主戦場からは一歩引いた位置にいるだろう。しかし、日本なりのデジタル戦略、イノベーション戦略を描き、着実に実行することで、国際社会における一定の地位は維持できるはずだ。重要なのは、日本の強みを活かしつつ、デジタル時代の潮流に適応することだ。日本が目指すべきは、米中とは一線を画した、「品質」と「信頼」を武器とする存在感である。そのためには、官民を挙げての不断の改革が欠かせない。日本の針路を見定め、スピード感を持って実行に移すことが求められている。
(800字)

問2

<日本政府がイノベーション促進のために推進すべき政策>
1. スタートアップ支援の強化
目的:スタートアップ企業の成長を後押しし、イノベーションの芽を育てる
対象:シード期からアーリーステージのスタートアップ企業
手法:官民共同のファンド設立、税制優遇、規制のサンドボックス制度の導入

2. 産学連携の促進
目的:大学の研究成果を実用化し、イノベーションにつなげる
対象:大学、研究機関、民間企業
手法:共同研究への資金提供、技術移転の支援、人材交流の促進

3. デジタル人材の育成
目的:デジタル分野でのイノベーションを担う人材を育成する
対象:初等教育から高等教育までの各段階の学生
手法:プログラミング教育の充実、デジタルスキル認定制度の導入、リカレント教育の推進

その中でも特に重要と考えるのが、「スタートアップ支援の強化」である。

日本経済は、大企業中心の構造から、スタートアップによるイノベーションを取り入れた構造へとシフトしていく必要がある。しかし、日本では起業家精神が十分に醸成されておらず、スタートアップへの支援も不足している。民間のリスクマネー供給も限定的で、スタートアップが成長する土壌が整っていないのが現状だ。

そこで、官民共同のファンドを設立し、シード期からアーリーステージのスタートアップに対して積極的に投資を行うことが求められる。また、スタートアップへの税制優遇や、規制のサンドボックス制度の導入により、スタートアップが事業を展開しやすい環境を整備することが重要だ。

こうした施策により、スタートアップへの支援を強化することで、イノベーションの芽を育て、日本経済の新陳代謝を促すことができる。また、スタートアップの成長は、雇用の創出にもつながり、経済の活性化に資することが期待できる。

ただし、スタートアップ支援の強化には、リスクも伴う。公的資金を投入することで、民業圧迫につながる恐れがある。また、支援対象の選定を誤れば、非効率な資源配分を招く可能性もある。

したがって、スタートアップ支援策の実施に当たっては、民間の意見を十分に取り入れ、市場原理を踏まえた支援策を講じることが肝要だ。また、支援対象の選定に当たっては、専門家による厳正な審査を行い、成長性の高いスタートアップに対して重点的に支援を行うことが求められる。

イノベーションの促進は、日本経済の持続的成長に欠かせない要素だ。政府は、スタートアップ支援をはじめとする施策を強力に推進し、民間の力を最大限に引き出すことで、日本の成長力を高めていく必要がある。同時に、リスクを適切にマネジメントし、効果的な支援策を講じることが求められる。日本の未来を切り拓くイノベーションの芽を育てることが、我々に課された使命と言えよう。
(800字)

慶應義塾大学 総合政策学部2024年【解説】

問1の解説

問1は、日本経済の現状と課題に関する5つの資料が提示され、その中から4つを選んで、10年後の日本の姿を、米国や中国との関係に言及しながら展望するという問題でした。

この問題に取り組むためには、まず、提示された資料をしっかりと読み込むことが重要です。各資料の主題を的確に把握し、問いとの関連性を見極めることが求められます。その上で、資料の内容を踏まえて、自分なりの論点を設定することが大切です。

例えば、資料1と3を選んだ場合、デジタル化とイノベーションを巡る国際競争の激化という論点を設定することができます。日本のデジタル化の現状と課題を踏まえつつ、米中のデジタル覇権争いが激化する中で、日本がどのようなポジショニングを取るべきかを考察するわけです。

また、資料4と5を選んだ場合は、デジタル・プラットフォーマーの台頭がもたらす影響と、ESG投資の拡大に象徴される資本主義のあり方の変化という論点を設定できます。日本企業がグローバルな競争に勝ち抜くためには、イノベーションを促進しつつ、持続可能な経営を追求することが欠かせません。

論点を設定したら、いよいよ論述に入ります。ここでは、資料の内容を踏まえつつ、自分の考えを論理的に展開することが求められます。単に資料の内容を要約するだけでなく、資料から読み取れる示唆を独自の視点から掘り下げることが重要です。

例えば、日本のデジタル化の遅れを指摘するだけでなく、その原因を分析し、克服するための方策を提示するといった具合です。また、日本の強みを活かしつつ、デジタル時代の潮流に適応するための戦略を提言するのも良いでしょう。

10年後の日本の姿を展望するためには、足元の課題認識に加えて、中長期的な視点が欠かせません。少子高齢化の進展、国際競争の激化、地政学的リスクの高まりなど、日本を取り巻く環境は大きく変化しています。こうした構造的な変化を見据えつつ、日本の進むべき道筋を論じることが求められます。

最後に、自分の主張を明確にまとめることを忘れてはいけません。日本の目指すべき方向性を端的に示し、そのために必要な取り組みを提言することが重要です。その際、複数の論点を関連付けて、説得力のある結論を導き出すことが求められます。

問2の解説

問2は、日本政府がイノベーションを促進するために取るべき政策を提案する問題でした。

この問題に取り組むためには、イノベーション政策に関する知識が必要不可欠です。研究開発支援、人材育成、知的財産保護など、イノベーション促進のための様々な施策があることを理解しておく必要があります。

その上で、自分が重要だと考える政策を選び、その理由を論理的に説明することが求められます。例えば、スタートアップ支援の強化を提案するのであれば、なぜスタートアップがイノベーションの担い手として重要な役割を果たすのかを、具体例を交えて論じる必要があります。

また、提案した政策がもたらす効果について、多面的に考察することが重要です。スタートアップ支援であれば、イノベーションの促進、雇用の創出、経済の活性化など、様々な効果が期待できます。これらの効果を、データを交えて説得力を持って説明することが求められます。

一方で、政策の実施に伴うリスクや課題についても言及することを忘れてはいけません。公的支援による民業圧迫や、非効率な資源配分などの懸念点を指摘し、それらをどのように克服するかについて自分の考えを示すことが重要です。

最後に、政策提言としてのまとめを行います。自分が提案した政策の意義を改めて強調し、その実現に向けた具体的な取り組みを提言することで、説得力のある主張を展開することができます。

総評

以上が、問1と問2の解答のポイントです。いずれの問題も、資料や知識を踏まえつつ、自分の考えを論理的に展開することが求められます。

総合政策学部の小論文では、社会の様々な問題について、多角的な視点から考察することが重要です。日頃から、新聞やニュースなどを通じて、社会の動向に関心を持つことが大切です。また、自分の考えを言葉で表現する力を養うことも欠かせません。

小論文の勉強は、一朝一夕にはできません。日々の積み重ねが大切だと言えます。過去問を解いて傾向を掴むことも重要ですが、それ以上に、自分の頭で考える習慣を身につけることが何より大切です。

社会の様々な問題について、自分なりの問題意識を持ち、論理的に考察する。そうした訓練を積み重ねることが、小論文の実力につながります。皆さんが、思考力と表現力を磨き、自分の頭で考える力を身につけることを期待しています。

最後になりましたが、受験勉強は決して楽なものではありません。しかし、自分の将来を見据えて、目標に向かって頑張ることは、とてもやりがいのあることだと思います。皆さんの健闘を心より祈っています。

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ABOUT ME
Kaz
2005年慶應義塾大学総合政策学部入学、2009年卒業。本サイト「小論文のトリセツ」の管理人&慶應SFCインテンシブコースの責任者です。志望大学合格に向けて、受験生を全力でサポート致します!

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