慶應SFC小論文 過去問答案例・解説

慶應義塾大学 環境情報学部2016年 答案例・詳細解説

慶應SFCインテンシブコース

慶應義塾大学 環境情報学部2016年【問い】

 あなたの身近にある道具の進化を考えてみましょう。身近な道具ですぐに思い浮かぶのは、この試験を受験する教室で鞄の中にしまったスマートフォンではないでしょうか。
 このスマートフォンをそのまま解釈すると、持ち歩ける賢い(スマート)電話(フォン)になります。人が移動しながら電話で話せるという意味では、1979年にサービスが開始された自動車電話が、日本のスマートフォンの元祖ではないでしょうか。当時の電話は今のようにスマートではなく、自動車のトランクに無線機を乗せるほど重くて大きかったのです。それが80年代の終わりになって持ち歩けるようになり、ようやく携帯電話と呼ばれるようになりました。90年代の終わりから携帯電話でインターネットが使えるようになり、メールやウェブサイトを見ることができるようになりました。今では名前こそフォンと呼ばれていますが、スマートフォンでは電話としてよりも、インターネットの様々なサービスを使える道具としての使い方が主流になっています。
 インターネットの代表的なサービスといえば、LINEやTwitterなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキングサービス)が挙げられます。SNSはいつでもどこでも仲間の様子を知ることができる便利なサービスですが、仲間のことを気にしすぎるとスマートフォンを手放せなくなり、いつも誰かとつながっていて自分の時間が少なくなったと感じている人も多いと思います。ほかにもスマートフォンの地図を利用することで、初めて訪れた街で道に迷う不安から解放されたり、スマートフォンで撮った写真をSNSに投稿して、遠く離れた友達から久しぶりにコメントをもらって嬉しくなったりすることを経験した人も多いと思います。
 コンピュータやネットワークの技術が進歩して新たな道具やサービスが作られ、それらを使 うことによって人の意識や行動が変化してきました。そこからまた新たな要望が生まれ、それ がまた技術や道具やサービスの進化をもたらす。私たちの身近な道具やサービスにはこのようなライフサイクルがあるのではないでしょうか。

 この小論文では、あなたの身近にあるモノ(道具)やコト(サービス)を対象に、何がきっかけになってそれらのモノやコトが登場してきたのか、さらにそれらを使うことで人の意識や行動がどう変化したのかを考えてもらいたいと思います。

 資料AからGは、さまざまなモノやコトの登場による人々の活動や見方の変化についての資料です。モノやコトのさまざまな見方を提示しますので、まずは頭を柔らかくしてください。

問1

資料AからGについて、どんなモノやコトの登場により、生活や人の意識など、何が変化したかをそれぞれ1行で簡潔に答えてください。

問2

(1)あなたの身近にあるモノやコトをひとつ選び、それが何かを解答欄に記入してください。(2)あなたが選んだモノやコトが生まれた背景と2016年現在のそのモノやコトによる生活や人の意識の変化について、解答用紙の4つの枠を自由に使って、あなたの視点で説明し、採点者を説得してください。なお、4つの枠は、左から順番に全てを使い、記述内容は文字・画面を問いません。

問3

問2であなたが選んだモノやコトが、来るべき未来にどのような発展・進化を遂げているかを考えてください。そして、それが登場したきっかけとともに、そのモノ・コトを使うことによる生活や人の意識の変化を、現在から未来を想像しながら880文字以内で説明してください。なお、未来についてはあなたが大学を卒業した後を想定していますが、どの年代かは自由に設定してください。

慶應義塾大学 環境情報学部2016年【答案例】

問1

資料A:テレビの登場によって家庭内での会話が減り、それに伴い関係が悪化していった。

資料B:火の登場によって狩猟採集民族は短時間で食事できるようになり、それにより狩猟に多くの時間をかけられるようになった。

資料C:ユニバーサルデザインの登場によって、日本の学生が障がい者について考える機会が増えた。

資料D:ファストITの登場によって、情報処理における「人手の仲介」は少なくなった。

資料E:安全運転宝くじ制度の登場で、人々は以前より積極的に法定速度を守って車を走らせるようになった。

資料F:横井軍平の作った玩具が大ヒットしたことによって、彼の哲学は任天堂のものづくりの根幹となった。

資料G:日本人が格安で留学できる学校が登場したことで、飲食店の紅茶の、国による文化の違いについて筆者が考えることとなった。

問2

(1) ウエアラブル端末
(2) 4つの解答枠は全て文字に使用。

1つめの解答枠

登場のきっかけ
私の視点では、ウエアラブル端末の登場は「技術の向上に伴う自然のもの」である。例えば、初期型の黒電話から、ガラパゴス携帯のように小型化され、機能の向上した端末へと進化し、さらにはそれが進められた結果として現代人の必需品とも言えるスマートフォンが登場した。そうなれば、次はさらなる小型化、携帯性の向上がなされたウエアラブル端末が登場するのが自然ではないだろうか。

2つめの解答枠

利点
ウエアラブル端末の利点は、何よりもその携帯性にある。例えば、ランニングが趣味の人が自分の走ったコースをGPS機能を有する端末を持って走ることで記録したいと考えた時、スマートフォンよりもウエアラブル端末のほうがかさばらずに済むため便利である。このように、文字通り「身につける」ことのできる端末はその携帯性により従来のものよりも活用の幅が広がるだろう。

3つめの解答枠

人の意識や生活の変化
ウエアラブル端末の登場によって、例えば左枠のように自分の運動の記録を正確に取ることが可能になり、それがモチベーションとなって運動を継続できる人が現れたり、脈拍を計測する機能を利用して、老人の健康状態を調べることが可能になったりする。

4つめの解答枠

問題点
ウエアラブル端末の問題点は、その携帯性故に起こりうるプライバシーの侵害である。自分の走行記録のために端末を付けてランニングすることを趣味としている人が端末情報を何者かに抜き取られ、解析されることによって家の位置を知られてしまうということは十分にありえる。

問3

ウエアラブル端末は今から二、三十年後にはさらに小型化されたものが安価になり、体そのものに埋め込まれる形となって人々に普及していくだろう。
現在のウエアラブル端末がその形をある程度保ったまま進化、発展をしたとしても、ウエアラブル端末にすっかり慣れ、かつてガラパゴス携帯を使う人々がそうだったように新たな端末が期待されるだろう。そしてそのニーズに応えるように、従来のものより遥かに小型で高機能なチップ型端末が登場すると私は考える。
それの登場により、例えば買い物をする時に財布を取り出すでもなく、スマートフォンを取り出すでもなく、手を機械にかざすだけで支払いが完了するようになるだろう。また、運動をする際にも今まで感じていたウエアラブル端末のわずかな重みから開放され、より快適に運動を楽しめる。
このような利点によって人々の意識や世の中の流れも変化するだろう。現在のように電子決済と現金支払いの二つの決済方式が入り混じった状態は終わりを迎え、二、三十年後には全ての店で電子決済のみを取り扱うことになると私は考える。また、ウエアラブル端末に置いても可能だった、端末による健康管理は「一度付けてしまえばもう忘れる心配が無い」という点で老人を中心にして広まり、今まで以上の普及を見せるだろう。
しかし、このような体内埋め込み型の端末はウエアラブル端末以上に大きな危険性をはらんでいる。体に埋め込まれているということは、端末の取り外しの手間や紛失のおそれが無いということだが、それは裏を返せば簡単には取り外せないということである。運動している時、買い物をしている時、さらには寝ている時であっても人々は「機械に監視されている」状態にあるのだ。高機能化した端末ほど何者かに侵入された時の問題は大きくなる。
近い将来、この端末が世界中の人々に普及するということになったら、それは世界中の人々が機械に監視される時代の始まりなのかもしれない。

慶應義塾大学 環境情報学部2016年【解説】

「環境情報っぽいなぁ」と感じた方も多いのはないでしょうか。この問題はやるべきことをしっかりとやった上で導入文設問文の読解を行えば、比較的スムーズに書ける人もいると思います。

まず導入文。

2段落目でスマートフォンがスマートフォンに至るまでをあらわし、3段落目はインターネットの利点、難点について述べています。新たな道具やサービスが作られることによって人々の意識を変え、人々の問題を解決してきたけれど、また新たな要望が生まれ、それに応えるようにまた新たな道具やサービスが…といった感じ。もともとはあまり良くない状態であったものが新たな道具やサービス(この場合はスマートフォン/インターネット)によって良い状態になり、また要望が生まれ(良くない状況)…という構造。

SFCは問題発見解決型キャンパスであるとしばしば言われますが、問題というものはそれを問題と思う視点が無いと、問題になりません。たとえばA国とB国が敵対関係にあるとして、A国で凶悪な感染症が蔓延するという事実はA国にとってはもちろん問題ですが、B国にとっては問題どころか利益です。そういった「視点」を常に意識していきましょう。

そして、最後の文。

「資料AからGは、さまざまなモノやコトの登場による人々の活動や見方の変化についての資料です。モノやコトのさまざまな見方を提示しますので、まずは頭を柔らかくしてください。」

「まずは頭を柔らかくしてください」。

SFCがわざわざこの文を、ここにはめた意味を考えてみて下さい。無意味にこんなものを書くことはしません。これは資料A~Gを用いる問1があくまでウォーミングアップであるということを指しています。SFCが「このやり方でまずはやってみて」と言っているということです。このまま問1の解説につなげると、問1は「どんなモノやコト」の登場により、生活や人の意識など、「何が」変化したかを資料から拾い上げて書くだけです。

問1

前述の通りここはウォーミングアップなのであまり時間をかけないように書いて次に進みたいところ。この年度はかなりオーソドックスな出題で、「軽めの問題1.2問」から「メインとなる重めの問題1,2問」という標準的な流れをしっかりとなぞってくれています。ですがこの年度がラッキーなだけであり、他の年度には変化球を投げてくる問題も沢山あるので、「この問題の重要度はいくつなのか」といったところを正確に判断して時間配分へと落とし込める選球眼を養っておくことも重要です。

問2

(1)「モノやコト」は人々の意識を変える道具であるという考えを下敷きにしてアイデアを絞ります。受験生はよくここのテーマによって点数が決まると考えがちですが(僕もそう思っていた時期がありました)、テーマ自体には加点も減点もありません。安心して下さい。

(3) 選んだモノやコトが生活や人の意識を変化させたということについて4つの解答枠を使って表現し、採点者を説得する。この「説得する」というところに悩むかもしれませんが、採点者が「なるほど、たしかに人の生活とか意識変えてるなぁ」と思うように訴えかけるというイメージです。そのため、変わる前と変わった後の記述は必須であると考えています。僕の答案例にはその記述が曖昧なため、点数は低いと思います。これを読んでくださっている方は僕の答案例にさらっと目を通し、ここからどう改造してこれを良いものにしようか、などを少しでも考えてみても力になると思います。

また僕はすべて文字で枠を埋めましたが、文字以外の方法の方が説得力が増すと思ったならそれでやるのがよいです。1つずつの部分を集めて、1つの主張、説得を完成させるイメージです。

問3

この問題では

・問2で選んだモノやコトが来るべき未来にどんな発展進化をするのか
・それは登場したきっかけ
・それによる人の生活や意識の変化

を記述するよう求められています。この構造、どこかで見覚えありませんか。

そう、導入文。
つまり問3がメインディッシュということ。ここから判断しなくても単に指定文字数が他の問題より多めというところからでも判断できますが、話題から判断できるということは問題をより深く理解できているということなので、書き出しを早くすることができます。
力を入れるべきは問1でも問2でもなく、この問3です。問2の4枠に必要以上にこだわるなら、ある程度の完成度で切り上げてメインに向かうべきだと私は思います。

解答の流れとしては

・どんな発展/進化をした?

・なぜそれが登場した?(どういう要望があった?)

・それが人々の意識や生活(よくない状態)をどう改善した?

というものです。まさに問題発見解決の話をしています。

このようにして答案を書くと比較的高い得点が見込めると思います。

まとめ

非常にオーソドックスな設問であり、過去問演習(特に環境情報学部)を重ねるうちに何度も見かけるタイプです。その中でも今回は問題発見解決についてSFCの方からわざわざ問題(問1)を通して準備運動をさせてくれるなど、かなり良心的なものでした。他の年度と比べると簡単と言えます。

ですが、逆に言えば補助輪が付いたこの問題についてリライトをして自分の思考を研ぐことで、他の年度の小論文も書きやすくなるかと思います。リライトはこの年度に限らず大事ですが、この問題はわかりやすく問題発見解決をしているので、SFCの過去問に取り組み始めたという方はこれをリライトすることをおすすめします。

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慶應義塾大学総合政策学部1年生。自分の受験生時代に培った、小論文の学習方法をもれなくお伝えします!

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