慶應SFC小論文 過去問答案例・解説

慶應義塾大学 総合政策学部(2014年) 答案例・詳細解説

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慶應SFC小論文の駆け込み寺

慶應義塾大学 総合政策学部2014年【問い】

みなさんは、これまでの学習をつうじて様々な教材を使ってきたと思います。そうした学習のなかで、おそらく教科書は特別な存在だったのではないでしょうか。そこで今日は教科書とは何かについて考えてみたいと思います。

教科書は年を経て改訂されていきます。教科書のなかに書かれていることは不変かつ絶対的なものではありません。教科書の記述には新たな研究の成果が次々と反映されていきます。生物や物理では新発見があると文字通り教科書が大きく書き換えられます。さて、歴史はどうでしょう。歴史の教科書は昔のことを教えるものなので内容はほとんど変わらないと思いますか。いえ、変わっているのです。歴史の場合も新しい学説(研究の成果)を反映して教科書の内容が変わっていきます。

今日は、まず学説と教科書の関係について考えたいと思います。

資料1と資料2は、19世紀から20世紀にかけての中国社会の変化に関する、ある2人の研究者の学説です。

資料3と資料4は、同じく19世紀から20世紀にかけての中国社会の変化と中国をとりまく東アジアの国際関係の変化についての、世界史の教科書の記述です。資料3と資料4は、同じ出版社から刊行された教科書の記述ですが、執筆された時期が違います。

問1:資料1と資料2を比較したうえで、二つの学説の違いを400字でまとめてください。

問2:資料3と資料4では、中国社会の変化と中国をとりまく東アジアの国際関係の変化についての説明の仕方が異なっています。まず、どのような違いがあるのかを説明し、その後に、なぜそのような違いが生まれたのかを問1の解答をふまえて解説してください(800字)。

つぎに、あなたと教科書の関係について考えたいと思います。

問3:これまでの学習のなかで、あなたが一番親しみにくかった科目は何ですか。一つあげて下さい。そして、その科目の教科書について、どの様な点を、どの様に改善すればもっと楽しく学べるようになるか、改良点を挙げて説明して下さい(500字)。

慶應義塾大学 総合政策学部2014年【答案例】

問1

19世紀の中国の歴史の解釈の仕方について、資料1で展開される学説では、「西洋の衝撃」と「中国の反応」という概念に大きく依拠している。すなわち、中国の近代化に最も重大な影響を及ぼしたのは西洋による能動的な役割に依り、中国の演じた役割は受動的もしくは反発的なものに過ぎなかったという説である。一方で、資料2の学説は、従来の「衝撃・反応」アプローチは思想的・文化的・心理的次元で問題だと捉え、その反面で社会的・政治的・経済的次元の検討を怠っている点を問題視しており、西洋に関係した諸変化と、西洋に関係しない諸変化との相互関係を明らかにすることを重視している。
このように、中国の近代化について、西洋の衝撃に対して中国が反応したと解釈する学説と、西洋の衝撃をきっかけに中国にどんな変化が起こったか、またその変化に影響を与える過程で西洋が如何なる役割を演じたかについてより理解を深める学説の違いがある。(394文字)

問2

まず、中国社会の変化と中国をとりまく東アジアの国際関係の変化について、資料3と資料4を比較しよう。資料3では、太平天国の運動は、西洋諸国が擁護する清朝軍によって崩壊したと記述されている。そして、アヘン戦争・アロー戦争後を通じて国内体制の全面的な改革を迫られることになり、洋務派と言われる漢人官僚が活躍し、清朝の支配体制の再編を目指したとされている。一方で、資料4では、太平天国などの反乱を鎮圧したのは、清の正規軍ではなく、清にも承認された団練や漢人官僚が組織した地縁に基づく郷勇という軍隊だったとしている。また、アロー戦争および太平天国の滅亡後、清は統治の再編にのりだし、結果的に軍事や技術は西洋式になったが、精神面では儒教的伝統が重視され、制度が変更される場合でも、既存の価値観に近代的理論が結びついたと記載している。このように、資料3では西欧諸国の外圧を受けて中国国内が変化したという点が強調されているのに対し、資料4では中国国内での社会的・政治的・経済的な変化についても焦点を当てている点が異なっている。
では、なぜこのような違いが生まれているのだろうか。歴史のみならず、教科書の内容は研究の成果である学説を反映して常に変更されていくものである。平成15年時点(資料3)では、19世紀の中国の歴史の解釈の仕方としては、「西洋の衝撃」と「中国の反応」という概念が有力だったため、この学説に沿って教科書は作成されていた。しかし、平成25年時点(資料4)では、研究が進むにつれ学説が更新され、中国国内の社会的・政治的・経済的次元の検討を考慮した「ポスト西洋の衝撃・中国の反応」モデルの学説が有力になった。このように、研究者による研究の成果である学説は常に更新され続けており、これら学説を反映した教科書も常に更新し続けているため、資料3と資料4では説明の仕方が異なっているのだと考える。(788文字)

問3

私が一番親しみにくかった科目は英語である。親しみにくかった点は2点ある。1点目は、リスニングやスピーキングの学習が疎かになっていた点である。英語を学習する目的は、リーディングやライティングのみならず、リスニングやスピーキングについても習熟し、学生が大学や実社会でコミュニケーションの手段として体得できるようになることだと考える。しかし、現状の英語の教科書は、テキスト主体のメディアであるため、「聞く」「話す」という能力開発を行うには限界があるように思う。また2点目は、過度な正確性を求める点である。文法や構文を正確に理解することは大事だが、正確性を意識するあまり、学生が実際に「使える英語」を体得できなければ本末転倒である。
 これら2点を解決するために、教科書を紙ではなくiPadのようなデジタル媒体に置き換えて、よりインタラクティブに学習を進めていくことを提案したい。英語はコミュニケーションのツールであるのだから、学習には双方向のコミュニケーションが必要だ。デジタル媒体の教科書と学生が双方向でコミュニケーションすることで、「読み書き」だけでなく「聞く」「話す」という能力はより開発されるだろうと考える。
(500文字)

慶應義塾大学 総合政策学部2014年【解説】

総評

まず、今年度の最大の特徴は、なんと言っても合計回答文字数が1,700文字と非常に多い点にあります。そして、読むべき資料は相変わらずボリュームが多いです。

こういう小論文の問題では、資料を読み進める前に、問いを読んだ時点で全体の時間配分を行うことが肝要です。

問いを読むと、問1は要約問題、問2は問1の回答を踏まえた上での論述問題であり、一方で問3は(他の問や資料を参考にしつつも)ほとんど独立した小論文問題だと捉えることができます。

これらを踏まえて、

・問いと資料の読解…30分間
・問1・2…1.5時間(400文字+800文字)
・問3…30分間(500文字)

といった時間配分の目安を、問いを読んだ時点で設計するようにしましょう。そうすることで、比較的解きやすそうな問3が制限時間内に書き終わらなくなるといった事態を防ぐことができます。

また、答案用紙を埋め始める前にアウトラインを作成することを忘れずにしてください。本文のように制限字数が多い小論文では、事前にアウトラインを作らないで答案を書き進めると、途中で何を書いているのか自分でも分からなくなってしまいがちです。

その結果、支離滅裂な内容、もしくは中身のない回答になってしまい、評価は大幅に下がってしまいます。

時間配分とアウトラインの設計を意識して取り組みましょう。

問1

制限字数は400文字なので、

・資料1の学説の要約…150文字
・資料2の学説の要約…150文字
・結論(二つの学説で何が違うか?に対する回答)…100文字

というような構成にすることを考えます。1文は50〜100文字なので、書くべき文章の目安がつきますね。

この枠組みの中に、それぞれの学説のポイントを資料から抽出すると、アウトラインが出来上がります。

問2

問いを読むと、本問は2部構成となっていることが分かります。

① 資料3と資料4で、それぞれどのような説明の違いがあるのかを説明する
② なぜそのような違いが生まれたのかを問1の回答をふまえて解説する

①については、中国社会の変化(対内的要因)と中国をとりまく東アジアの国際関係の変化(対外的要因)の2つに言及する必要があります。

上記のポイントについて、アウトラインのイメージを記載すると、以下の通りです。

慶應義塾大学総合政策2014_問2慶應義塾大学総合政策2014_問2

②について、ヒントは「西洋の衝撃」「中国の反応」アプローチは、中国側の「社会的・政治的・経済的次元の検討を怠っている」という点です。これら3つの視点を回答に盛り込んで論述していきましょう。

800文字全体の大まかな構成としては、

・①資料3×対内的要因…100〜150文字
・①資料3×対外的要因…100〜150文字
・①資料4×対内的要因…100〜150文字
・①資料4×対外的要因…100〜150文字
・②なぜ違いが生まれたのか?…200〜400文字

と想定し、文字分量のペースを意識しながら書き進めていきましょう。

また、何度も繰り返し強調していますが、SFC小論文では(SFC以外もですが)、問いが最大のヒントとなります。問いには、学説と教科書の関係について、全体の要約あるいはガイドラインともいうべき内容が記述されていますので、このガイドラインを参照し、答案にも反映させることが求められます。

問3

問3は、問1・2とは性格の異なる問題です。ただし、SFCの小論文での問いなので、SFCが求めている視点を盛り込む必要があります。すなわち、「問題発見・問題解決」の視点です。

・親しみにくかった科目は何か?
・その科目は、なぜあなたにとって親しみにくかったのか?(問題発見)
・その科目の教科書のどのような点を、どのように改善すればもっと楽しく学べるようになるのか?(問題解決)
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という問題発見・問題解決の構成を意識して答案を作成しましょう。

なお、従来の教科書の問題点としては、たとえば下記のような視点が挙げられます。

・テキストと画像のみ(音声対応、動画対応ではない)
・一方通行的な情報の伝達(インタラクティブではない)
・学校のクラスにとって同じ内容(生徒の学習の習熟度の差が考慮されていない)
・内容が画一的、没個性的で学習意欲が湧かない(生徒の学習体験が考慮されていない)

回答例では、英語を例に挙げているが、数学・歴史・理科(物理・化学・生物)など、AIなどの情報技術(テクノロジー)を活用した新しい「教科書」の提案はどの科目にも当てはまると言えます。

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Kaz
2005年慶應義塾大学総合政策学部入学、2009年卒業。本サイト「小論文のトリセツ」の管理人&慶應SFCインテンシブコースの責任者です。志望大学合格に向けて、受験生を全力でサポート致します!

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