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慶應義塾大学 総合政策学部2017年【問い】
総合政策学部は、環境情報学部とともに、問題発見・解決を理念としています。問題が個人の問題であれ、企業やNPOや政府の組織の問題、社会の問題や国際的な問題であれ、問題発見・解決を行うためには、まず、問題がきちんと把握(発見)されることが必要です。そして次に必要なのは、原因の分析です。問題が把握されても、問題の原因がわからなければ、解決策を提案することは難しいからです。また、一つの問題の原因を分析した結果、問題自体の定義を変更する必要性が生じたり、あるいは分析の結果将来予測が可能になり、別の問題が発見できたりすることもあります。ですから、原因を分析するということは、問題発見・解決の重要なプロセスの一つだということになります。将来、どんな道を選ぶにしても、原因分析の基本的な考え方や手法を、大学時代に身につけておく方が良いでしょう。
以下の問いに答えてください。問1
因果関係と相関関係とはどう違いますか。また、相関関係から因果関係に迫るには、何をすればよいですか。資料1〜4を読んで、自分の言葉で要約してください。300字以内問2
図1は都道府県の成人男性(65歳未満)の糖尿病の死亡率(人口10万人当たり死亡人数)と平均年収(百万円)を散布図にしたものです(データは仮想です)。各都道府県の年齢構成は同一となるよう調整してあります。ここでは糖尿病の死亡率が最終的な結果だとします。問1の回答および資料5〜7を踏まえ、必要に応じてさまざまな要因を加え、糖尿病の死亡率と平均年収の間の関係の構造を図示してください。因果関係を示す時には、A(原因)→B(結果)、相関関係を示すときには A←→Bとします。Aが増える時、Bも増えるなら + 、Aが増える時、Bは減るなら − をつけて表してください。数式化して表現しても構いません。なお、図示化の例は資料3の中にあります。注) 糖尿病とは、膵臓から出るインスリンというホルモンの作用が低下したため、体内に取り入れられた栄養素がうまく利用されずに、血液中のブトウ糖(血糖)が多くなっている状態です。I型(インスリンが出ないタイプ)とII型(インスリンが出ても、肥満などにより作用が出にくいタイプ)に分かれますが、日本の糖尿病患者の95%がII型です。回答に当たっては、全患者がII型糖尿病であると仮定してください。
問3
問2で示した相関関係や因果関係の構図をわかりやすく文章で説明してください。500字以内
慶應義塾大学 総合政策学部2017年【答案例】
問1
因果関係は、ある事柄を原因としてある結果が生じるという、原因と結果の関係性を指す。一方で、相関関係は、二つの事柄の関係を記述するが、因果の方向までは決めない。このように、因果関係は原因と結果の関係の関係が明らかであるが、相関関係は必ずしも原因と結果の関係にあるとは言えない点で、両者は異なっている。
相関関係から因果関係を導き出すためには、まず見せかけの相関関係を生まないようにする必要がある。そのためには、因果関係を構造化するモデルを作成し、要素間の関係に影響を与える潜在変数を洗い出すことによって、他の変数の影響をそろえる必要がある。その上で、要素間で相関関係が確認できれば因果関係があると言える。(300文字)
問2
問3
図1によれば、平均年収が増えれば、糖尿病死亡率が減るという負の相関関係が示されている。一見因果関係があるように見えるが、逆の因果関係を考えてみると、糖尿病死亡率が減ると平均年収が高いとなり、平均年収と糖尿病死亡率の変数は因果関係だとは言えないだろう。
糖尿病死亡率に影響を与える変数として、対象者の年齢および検査の有無すなわち予防行為が挙げられる。前者について、一般的に、若者の糖尿病死亡率は低く、高齢になればなるほど高まると思われるためだ。しかし、高齢の人であっても年収が高い人は、可処分所得が多く、自身の健康に投資する資金を持っており、また健康に気を遣う傾向が強いと思われるため、糖尿病死亡率は同年代の人と比べて低いと思われる。また、後者について、検査によって糖尿病の予兆が見られれば、自身の健康管理を意識して食生活を改善することで、死亡率を下げることになるだろう。年収の高い人は自身の健康に気を遣っていると思われるため検査はするが、この行為は年収の高い人の糖尿病死亡率を低減させることを表すだろう。
したがって、糖尿病の死亡率は、対象者の年齢と定期検査による予防行為が影響を与えると考えられる。(498文字)
慶應義塾大学 総合政策学部2017年【解説】
総評
相関関係と因果関係という、一見似たような概念の違いを読み解き、具体的な事例を挙げて説明する問題です。言葉の概念が正確に理解できていなくても、問いと資料をヒントに読み進めていけば、十分に回答することはできます。
問2・問3よりも、問1の方が難しいのではないかと思います。本番では、問1に時間を取られ過ぎないように時間配分に気をつけながら、回答を作成していきましょう。
なお、どの教授・准教授が大学入試問題を作成したかはトップシークレットになっていますが、おそらく本問は中室牧子総合政策学部教授ではないかと予想しています(あくまで個人的な予想です)。
中室先生の2016年の著書に『「原因と結果」の経済学』がありますが、そのメインテーマはまさに相関関係と因果関係の違いを、データとロジックを元に明らかにしていくというものです。
大学の教授が専門とする研究テーマに対して、大学受験生が2時間で正確に回答するというのは土台無理な話です。したがって、回答の細部の正確性は一旦置いておいて、あくまでも問いに対して正しく回答することに終始注力するようにしましょう。
問1
資料1〜4より、問いに関連する記述をピックアップしていきましょう。実際の学習や試験本番では、問題用紙で重要だと思われるテキストにマーカーを引いたりして、問いを意識しながら資料を読みましょう。
●資料2
・ある事柄を原因として、ある結果が生じる場合、因果関係があると一般的に言います
・相関関係は、二つの事柄の関係を記述するだけで、因果の方向までは決めてくれない
●資料3
・因果(原因と結果)の方向の問題
・見せかけの相関を生んだのは、(中略)、潜在変数
・性別や年齢、時間の経過などが代表的な潜在変数です
・このように複雑になってくると、因果関係に関するモデルを作る必要が出てきます
●資料4
・観察された相関関係は単に見掛け上のものということになる
・因果関係があると言えるためには、…(中略)…他の変数の影響をそろえる、すなわち統制(コントロール)した上でも、相関関係が確認されなければならない
上記ポイントを継ぎ接ぎして、まとめていきましょう。
問2
構造の図示にあたり、考慮すべき点はいくつかありますが、主に下記の2点です。
・糖尿病の死亡率と平均年収は、やや負の相関関係がある(相関係数が-0.49)が、因果関係があると言えるだろうか?
・2つの変数に影響を与える潜在変数は何か?
糖尿病の死亡率と平均年収は因果関係にあるとは言えないため、それぞれの変数は何によって影響を受けているのかを考える必要があります。すなわち、資料内に記載のある「潜在変数」を追加します。
潜在変数について、資料3では「性別や年齢、時間の経過などが代表的な潜在変数です」と記載がありますので、これを追加する潜在変数のヒントとして活用し、図を作成していきます。
因果関係を構造化するモデルについては、資料3の図3および資料7の図5を参考にしましょう。
問3
問2で作成した図の説明をテキストで記載する問題です。問2の完成度が高ければ、本問はあまり悩まずに書けるのではないでしょうか?当然、問2で十分な回答ができていなければ、この問題でも満足な回答はできないでしょう。
本問では、問2で考慮した2点、すなわち
・糖尿病の死亡率と平均年収は、やや負の相関関係がある(相関係数が-0.49)が、因果関係があると言えるだろうか?
・2つの変数に影響を与える潜在変数は何か?
について、具体的な説明を回答に盛り込むべきです。