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慶應義塾大学 総合政策学部2022年【問い】
慶應義塾大学総合政策学部では、問題発見・解決型教育を実践してきました。具体的に問題発見・解決をするにあたって重要となることの1つとして、問題に内包されたトレードオフ関係を特定し、それらにどのように対応するかの方針を解決方策の中に盛り込むことがあります。トレードオフとは、達成したい目標が複数ある場合に、特定の時点において考えうる方策の中から、いずれかの目標を達成できるものを選択すると、他のいずれかの木行が達成できなくなってしまう(あるいは達成度合いが小さくなってしまう)関係のことです。平易に表現するならば、何かを得ようとすると他の何かを失う状態です。例えば、部屋の中に寒がりの人がいる一方で省エネルギーも達成したい時に暖房を何度に設定するかなどは、典型的なトレードオフの問題に直面している状態と言っていいでしょう。(中略)さて、以上をふまえて5ページ以降にトレードオフ関係を内包していると考えられる3つのテーマについて参考文を掲載しました。これらに関して問1と問2に答えてください。問1
(1)
それぞれのテーマについて、重要であると思われるトレードオフ関係を1つずつ指摘してください。
(2)
上であげた関係が、どうしてトレードオフとなるのか理由を考え、それぞれ120字以内で論じてください。
問2
問1で指摘したトレードオフ関係の中から1つを選び、3ページに記した(イ)、(ロ)、(ハ)のいずれかの対策方針を用い、どのよな方策で解決するべきか1000字以内で論じてください。なお、(イ)、(ロ)、(ハ)ではない別の考え方で対処できるという場合には、その旨記し、どのような考え方か説明した上で答えてください。SFCでは肩にハマらない学生を歓迎しているので、本当にそれが正しいと思ったら、臆せず挑戦してみてください。
慶應義塾大学 総合政策学部2022年【答案例】
問1(1)
<テーマ1:コーポレートガバナンス>
株主の利益とステークホルダーの利益
<テーマ2:パーソナルデータ>
データ活用とプライバシーの保護
<テーマ3:サプライチェーン>
安定したサービスの提供と在庫管理コストの削減
問1(2)
<テーマ1:コーポレートガバナンス>
以前から株主に対する利益の還元は重要視されていたが、近年では企業の社会的責任への期待が高まっていることから、ステークホルダーの利益も重視されるようになっている。ステークホルダーの幅が広がった現在では両方の利益を生むことが難しくなっている。(119字)
<テーマ2:パーソナルデータ>
個人をデータによって管理することは、災害時の対策や医療面などで様々な問題を解決することができる。一方で、それらのデータに接続することで企業や国家が個人の行動を監視することができるようになるという危険もある。(103字)
<テーマ3:サプライチェーン>
在庫の量を増やすことにより、需要に合わせて商品を提供できるようになり、不足の事態にも対応しやすくなる。一方で、在庫が増えれば増えるほど、品質の劣化や保管場所の確保などの、さまざまな在庫の管理コストがかかってしまう。(107字)
問2
選んだトレードオフ関係:<テーマ2:パーソナルデータ>
対処方針:(イ)
私はパーソナルデータの問題に関して、多少国家や企業が個人の行動を監視できるようになるというリスクを負ったとしても、個人の行動履歴データの利活用を進めていくべきだと考える。なぜなら、個人の行動履歴データを活用すれば、国や企業が個人の行動を監視する危険性よりも重大な利益が得られると考えられるからだ。以下は私がそのように考える根拠である。
まず、行動履歴データの活用による利益について、資料にあるような医療や災害の分野だけではなく、政策やマーケティングなど、非常に幅広い分野で利益につながる。例えば、消費者の行動データを収集、分析することで、消費者の需要にマッチした商品を売ることができる。また、例えば株取引の行動データを利用し、株価の変動を予測すれば、より適切な経済政策を行うことができる。近年ビックデータやAIが注目を集めているが、ビックデータの多くは行動データによるものであり、データの活用が今まで以上に重要視され、活発になっている現在では、行動履歴データの利活用が今後ますます重要になってくるといえる。
確かに国や企業が個人の行動履歴データを活用すれば、個人情報の漏洩やデータの悪用につながる危険性はあるだろう。個人の行動履歴を悪用すれば、詐欺などの犯罪に繋がってしまう危険性もある。しかし、これらの問題は適切な法整備や国民のデータリテラシーの向上によって対策を行うことができる。国や企業に対して行動履歴データの利活用方法の明示を義務付けることや、国民一人一人が自身の行動データの利用に関して適切に理解することにより、行動履歴データ利用に関するリスクを軽減することができる。したがって、先に述べた行動履歴データの利用による利益と危険性を比較すると、国民または消費者にとって、利益の方がより重大であるといえる。
以上のことから、適切な対策を行えば、行動履歴データの利用によって得られるメリットの方がデメリットよりも重大なものとなるといえる。したがって私は、パーソナルデータの問題に関しては、多少のリスクは切り捨てても、行動履歴データの利活用は進めていくべきだと考える。(881字)
慶應義塾大学 総合政策学部2022年【解説】
導入文
トレードオフに関する解説がなされています。トレードオフの観点からいかに課題発見、解決につなげることができるかが重要になってくるでしょう。
(イ)はトレードオフの問題に対して、片方の問題に優先的に対処する方針です。問題に優先順位がつけられる場合に用いるようにしましょう。
(ロ)はトレードオフの問題に対して、均等に対処する方針です。どちらの問題も致命的なものではないときに用いるようにしましょう。
(ハ)はトレードオフの問題に対して、トレードオフ関係を解消することで個別に対処する方針です。先端技術などを有効に活用することが重要になってくるでしょう。
問1
それぞれの資料のトレードオフ関係を説明することが求められています。それぞれの資料を読んでトレードオフ関係を見つけるところから始めるようにしましょう。ただし、問2では3つの資料のうち一つだけに絞って解答を作ります。問1を解き始める前から、自分が問2で言及しようとしている資料を一つ決めておきましょう。総合2022年は全体的に資料がかなり多いので、全ての資料にきちんと目を通していると時間がなくなってしまいます。問2で言及する予定以外の資料に関しては、最低限トレードオフ関係を見つけられる程度に流し読みにしましょう。試験時間と答案の完成度はまさにトレードオフの関係ですね。(笑)小論文に関しては試験時間内に書き終わることを優先して対処するようにしましょう。各トレードオフ関係に関しては答案例の通りです。文字数も少なく、要約問題となっているので、それほど大きな失点にはつながらないでしょう。問2を見据えながら解答を作るようにしましょう。
問2
ここでは実際にトレードオフの問題に対処することが求められています。導入文の解説にある各対処方針の特徴を踏まえた上で、適切な対処方針を選ぶようにしましょう。どの対処方針を選ぶかによって解答の作り方が変わってきます。
(イ)を選んだ場合、なぜ片方の問題に優先的に対処する必要があるのかを中心に解答を作るようにしましょう。譲歩を使うと書きやすくなると思います。
(ロ)を選んだ場合、どちらの問題も重大であること、またどちらの問題も致命的なものではないことを述べましょう。均等に対処することが可能であることを説明する必要がありそうです。
(ハ)を選んだ場合、トレードオフ関係がなぜ生まれているのか、それを解消するためにはどのようなものが必要なのかを書きましょう。トレードオフ関係のより根本的な原因について考える必要があります。
その他を選んだ場合、どのような方法を用いてトレードオフ関係に対処するかを書きましょう。それがどのような方法なのか、導入文に合った対処方針よりもどのような点で優れているのかを述べるようにしましょう。
慶應義塾大学 総合政策学部2022年【講評】
かなり資料が多いです。時間の使い方に注意する必要があるでしょう。資料の内容も専門的なものがあり、比較的難易度は高かったと言えます。ただ、出題形式や設問の内容は総合政策学部では典型的な問題となっており、過去問対策をきちんと行った生徒は解きやすかったのではないかと考えます。総合政策2021年、総合政策2016年、環境情報2015年などが似ているため、これらの対策を積むと解きやすくなると思います。