今回は、2021年東京大学理科一類に現役合格したリッキーくんに合格体験記を書いていただきました。「勉強とはなにか?」といった根源的な内容(抽象)と、具体的な勉強方法(具体)の双方を丁寧に解説してくれています。
15,000文字超の力作ですが(!)、小論文学習のヒントも詰まっていると思いますので、ぜひお読みください!
自己紹介
こんにちは!東京大学教養学部一年生のリッキーです。
皆さんに素性を明かすことなく合格体験記を書くのも憚れるので、まずは軽く私の経歴を述べます。
私奈良県に生まれ、2歳からは父の実家がある広島市で過ごしました。広島の公立の小学校に通い、中学受験のために授業中心の学習塾に通っていました。
その後、広島大学附属中高等学校に入学し、大学受験のために、中3から東進衛星予備校を利用して勉強に励みました。
しかしながら、最後に東進の授業をとったのは高校2年生の9月で、それ以降の受験勉強は参考書や問題集が中心でした。
結果的に、共通テスト本番は9割弱、東大の二次試験本番は余裕を持って現役合格することができました。
補足として、模試の結果まで述べておくと、高校3年時に受けたすべての東大型の模試は理科一類A判定でした。(4回の東大本番レベル模試、1回の東大オープン)
併願校は、早稲田大学創造理工学部建築学科(合格)、慶應義塾大学環境情報学部(不合格)でした。
早稲田は、受験教科が東大と同じこともあり、特に早稲田のための対策することはありませんでした。国立の最難関を目指す人は、国立の二次試験の対策をしっかりやれば、私立で不利になることはないと思います。
慶應の環境情報学部が不合格だった原因は、差がつく小論文の対策が足りなかったことが大きいです。
受験を決めたのも本番二ヶ月前で、当然ながら納得の行く準備ができませんでした。
まとめると、私は受験人生の中で対面授業、映像授業、独学の3つの学習形態を経験しました。
ゆえに私は、それぞれの形態の長所と短所を知り、その中で本当に有用なコンテンツを取捨選択して、自分の勉強法を確立することができました。ですから、「塾にだけ頼る」でも「独学に偏る」でもなく、必要なものを併用して、学力を伸ばしたタイプです。
この記事ではまず最初に、私が受験で身にしみた教訓からお話したいと思います。
三つの教訓
教訓① 志望する大学を早い時期から徹底的に考えておく
私は高校一年生から東大を目指して勉強していましたが、高校3年生でその思いが揺らぎ始めました。
というのも、以前はスポーツ製品のデザインをしたいと思っでいたのですが、その頃から建築に強く惹かれるようになり、東大が自分にとって最高の学び舎か、疑問を持つようになったのです。
東大は大学一年、二年と、全員が教養学部に所属し、英語、第二外国語などの必修科目を中心に学びます。そして三年生になると、やっと自分の専攻を決めて、他の大学のように学部に所属して興味のある分野の研究ができます。
つまり、他の大学では一年からバリバリ建築を学ぶのに、東大では最初の2年間建築に集中できないということです。
当時の私はこの2年間が途方も無い時間のように感じられ、第一志望は東大で良いのか疑念を抱きながらとりあえず東大の対策をしているという状態でした。
夏休みが終わると、そのモヤモヤが限界に達し、ついに第一志望を違う大学に替えました。そこから一ヶ月は受験勉強をパッタリ止めて、建築関連の本を読んだり、スペイン語や中国語をしたり、したい勉強をしていました。
もちろん、母と担任の先生には相当心配され、第一志望を東大に戻すよう何度も説得されました。今でも二人には自分の気まぐれで心労をかけて、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
結局、東大と他の建築学科の情報を洗いざらい調べて、本当に進学したい大学を決め直すことにしました。
そのときに、やっぱり東大に行きたいと確認し、東大に向けて勉強を再開しました。
結局、私の受験生活は勉強に身が入っていない時期がかなり長かったです。それに加えて、受験直前の大事な9月をまるまる勉強していませんでした。
最終的に受かったからいいものの、これで東大に受からなかったら一生悔いが残ったかもしれません。
皆さんは僕のように、高校3年生でモヤモヤを抱かないよう、進学する大学について早いうちから真剣に検討してください。
志望校を定めるのが早ければ早いほど、志望校への思いが強ければ強いほど、受験は皆さんの有利に働きます。
教訓② 過去問を本気で解き、最高の戦略を練る
よく過去問を入試直前まで取り置く人がいますが、これは絶対に止めましょう。
難しい問題が全然解けないのに、過去問を解くことなんてできない、っていう意見はよくわかります。
それでも、少なくとも入試一年前には、時間を測って、試験本番のつもりで過去問と向き合い、答え合わせして点数まで出すべきです。
ここまで主張するのには理由があります。
まず第一に、過去問と向き合うことで、自分の点数が合格までにどれだけ足りないか知り、勉強内容、勉強法の方針を定めることができるということです。
過去に大学入学者を選抜してきた過去問には、大学からの「どんな生徒に入学して欲しいか」のメッセージが詰まっています。それを肌で感じることなく、他人の意見や世間一般の情報を盲目的に信じて勉強することは勿体ないです。
結局のところ、他人の独善的な意見はその人の能力、状況によるバイアスがかかっていますから、皆さんに当てはまる真理である訳がないのです。
自分の手を動かして、今の自分に何が足りないのか真剣に考えることで、目的を明確に持って勉強に取り組むことができます。それに、必要性(これをやらないと受からないぞ!っていう感覚)を感じていると、そうでない時と比べて、やる気が格段に高くなります。
第二に、過去問と向き合うことで、試験本番で最大の結果を出すための戦略を練ることができます。
百聞は一見に如かずなので、実際に私がスマホにメモった英語の戦略の一部を見てみましょう。
英語の戦略メモ(目標105点)
原則
- 相手の論旨を汲み取る
- 型で理解する
- 予測する
基本
- 前後を見る
- 部分に分ける、全体から見直す(抽象部と具体部を読み分ける、)
- 繋げる(段落同士の関係)
自由英作と要約を充実させるために
前半をダラダラしない意識を持つ。
物語の説明
- 誰が何をどうしたか
- 分割して曖昧な要素を説明しきる
に尽きる。
見直し(十分もないはずだが)
- 英作と和文英訳の見直し(集中!)
- 和訳の見直し‥要素の抜けがないか
- その他分からなかったところ。
- マークシート
最初に2分以内で(設問一つに短くて5秒)リスニングの設問に目を通す。これは作業。
リスニングは配点が大きく満点を狙うべき大問なので、読みながら解いてあやふやにしたり、読み飛ばしてパニックになるのはもったいない。確実に取りきらなければならない
3話題の展開
話の切れ目が明確になって、前後の内容を混同しなくなる。
4登場する語句
専門用語→本文での定義、意義が問われる
簡単な言葉→そのまま出で来ないが、違う言い方をして本文に登場する。像を持つ。
覚悟すること
そぐわないものを選ぶ
→事前に選択肢に目を通す。話題の転換点を把握し、本文に合致する選択肢を聞きながら消去していく。
数の選択問題
→なんの数字か明確に意識する。計算が必要である可能性がある。複数の数字が何を表しているのか区別。
意見の要約問題
→本文の言葉使って引っかかる場合がある。やはり発言者が本当は何を主張しているのか考える。
次に約20分かけて5番を解く。
サラッと集中
発言や行動、更には描出話法で確定できる。すべての表現には作家の意図がある。
採点対象になりそうな箇所は意識して訳抜けを防ぐため、文を解体して部分訳をつなぐ。
感覚で行き過ぎたら間違えている可能性が高い。
説明しなさい
→(具体)〜ということ
次に4二番を約10分で解く。(10分の9点)不自然な訳はたいてい文の意味を取り間違えているから、時間の限り正しい解釈に時間を使う。分割して訳抜けを防ぐ。
4一番を10分以内で終わらせる。
傍線部の位置はゆっくり読むが、その他は内容を掴むことに終始する。
正誤
- 何を言いたいのか考える
- 型(構文)を理解する
- 知識から推論する
注意すべきは①関係詞②並列構造③動詞④比較⑤不定詞などの修飾語句⑥熟語
並べ替え
- 何を言いたいのか考える
- 型(構文)を理解する
- 知識から推論する
一旦できたら、無理やりな解釈をせずに、 本当にそれで意味が通るか確認する。
上記のメモと今の皆さんの戦略を比べてみてください。
私は
・得く大問の順番
・大問に割く時間
・大問の心構え
・設問の分析
まで考えて戦略を練っていました。
他の科目の戦略もこれとほぼ同様の形式です。
最適な戦略というのは、本番だと思って過去問と向き合うことで、初めて思いつきます。
逆に本番と違う状況で過去問を解いていたら、本番で使える戦術が思い浮かぶはずもありません。
何回も本気で戦略を練り上げると、問題の傾向が大幅に変化しない限り、本番で大失敗することはまずあり得ません。
皆さんもぜひ志望校の過去問を、時間を測って解き、答え合わせをして点数を出した上で、どうすれば点数を最大化できるか考えてみてください。
教訓③ 直前期は復習を中心に解法の定着を図る
入試直前一ヶ月前に、新しい参考書、問題集に手を出すのは危険です。入試までに消化しきれない可能性が高く、何よりそれ以前の学習内容が抜け落ちてしまいます。
それよりは、今まで使ってきた参考書、問題集、ノートを見返してその内容が本当に身についているか確認しましょう。
私の場合、このように復習していました。
直前期の英語・国語対策
過去に受けた東大型の模試を時間を測って解き直す。このとき、当然ある程度文章の内容を覚えているので、実際の制限時間よりトータルで15分短い時間で解くことを目標にしていました。
ここで意識していたのは、解答のプロセスを明確にすることです。言い換えれば、自分がなぜそう解答したのか、説明できるようにするということです。
当たり前ですが、いつまでもフィーリングで解いていては、一発勝負の試験本番で安定して得点できません。
どんな問題が出題されても自信を持って解答できるように、常に根拠を持って解答するようにしましょう。
単語、熟語などの英語表現に関しては、確信を持って理解できる、または使える状態にしないと、試験本番で意味やニュアンスを間違えてしまう恐れがあります。
そこで私は、表現を英作文で自信を持って使えるように、頭の中で短文を瞬時に作って発話する練習を繰り返しました。
英語の勉強法などは、また他の記事で紹介したいと思います。
直前期の数学、理科対策
何周もしている難しい参考書、問題集の問題文を読み、解法を考える練習をしていました。
実際に数学、理科の問題を「解答まで書いて」復習するとなると、直前期は時間がいくらあっても足りません。
そこで私は、問題文を一読して、
「結局出題者はこの問題で、受験生に何を問いたいのか」
「この問題は、模範解答のように解けるのか」
「この問題から何が学べるのか」
を考える練習をしていました。こうすることで、与えられた式を観察する力と、問題文の合理的に言い換える力がつきました。
そして、そこから得られた気付きを一文に凝縮し、問題のタイトルとしてストックしていました。
このタイトルを一読すると、自分が陥りやすい間違いや、数学の問題の本質的な見方が一瞬で思い出せます。
ストックされたタイトルを試験直前に見直すと、過去と同じ間違いをする可能性は格段に低くなります。
皆さんもぜひ試してみてください。
皆さんにとっての勉強とは
教訓を述べたところで、大まかな勉強の考え方を述べたいと思います。
ここを読んで、皆さんの中には、
えっ、勉強の考え方?そんなのより勉強法とか勉強計画教えてよ。
と思われた方も多いでしょう。
確かに普通の合格体験記というと、個人の勉強法や計画に終止してあるものが多いですが、それが本当に皆さんの役に立つでしょうか?
私は、役に立つ可能性は極めて低いと思います。
なぜなら、受験生(特に難関大学に合格するような人)というのは、1,2年以上費やして、勉強法、勉強計画を自らの能力、状況に合わせてカスタマイズしてきた人たちで、その人たちにとってベストだった勉強法や計画が、能力も状況も異なる全く別人格の皆さんに当てはまる可能性は極めて低いからです。
分厚い合格体験記一冊分に、皆さんが目に見える効果が出るような勉強法、勉強計画は、数個程度しかないと思います。
そういうことで、私はもっと根源的な話、SFCを受ける人にも、東大を受ける人にも大いに役立つ、勉強の基本的な考え方を提示したいと思います。
今から述べる考え方は、個人的な勉強に対する見解であり、皆さんが受け入れる必要のあるものではありません。
というのも、自分の中に確固とした見解があることは、合格のために必須ではないかもしれないからです。実際、そういうことをあまり考えていないと思われる同級生が、何人も東大に受かっています。
しかしながら、皆さんは受験という荒波の中で、「合格」という名の島を目指す一つの船です。信頼できる羅針盤なしでは、不規則に動く太陽や星に惑わされ、目的地に着くまで遠回りしてしまうことでしょう。
常に正しい方角を指し示す羅針盤があることで、悪天候にも揺るぐことなく、今の位置から島への最短ルートを辿れるのです。
注意点
ここで一つ、皆さんに見失ってほしくないことがあります。
それは、「合格」島は単なる通過点であるという事実です。
望んでいるかは別として、皆さんのほとんどは大学に進学し、高校より高等な学問を扱っていくことと思います。
そんな皆さんには、高校の勉強を無味乾燥な思い出にしてほしくありません。
むしろ、将来に繋がる意義を見出してほしいのです。
ぜひとも高校生のうちに、勉強にはどんな意味があるのか、考えてみて下さい。きっとそれが、受験勉強の財産になるはずです。
現在大学で学んでいて思うことですが、本当の意味で「学習の姿勢」を身に着けた人は、大学に入ってからも強いです。目新しくて、難しい概念もしっかり理解できます。
また、ときには手元だけに集中するのを休めて、「自分はどんな勉強をしていて、他の人と比べて成果が出ているだろうか」と客観視するのもいいと思います。
勉強とはなにか?
では、まず私なりの解釈をお伝えします。 この世のあらゆる勉強を端的に言い表すと、『論理的思考を通じて広い意味で「言語」に精通していく過程』だと私は捉えています。
いきなり意味のわからないこと言いましたね。ここからしっかり解説するので、ついて来て下さい。
言語とは
まずは「言語」について説明していきます。
突然ですが、皆さんが日々学んでいる国語や英語や数学という集合は、どうやって生まれたのでしょうか?
国語は「母語」である日本語の文章、昔の日本語の文章、そしてまだ文字がなかった日本に漢字を伝えてくれた、昔の中国の文章を扱いますよね。
英語は言うまでもなく、多くの日本人が母語としていない他の国の公用語である「外国語」です。
実は「母語」と「外国語」には共通点がああります。
それは両方とも、人類の進化と共に、コミュニケーションの媒体として自然に発生した、「自然言語」であるという点です。もし人間がコミュニケーションを必要としない、非社会的な動物だったのなら、「国語」も「英語」も存在しないのですね。
そして数学というのは、数千年前から人間が意図的に作り続けている、「自然言語」とは対照的に、意識的な訓練が必要な「人工言語」です。
(と言っても両者の境界線は曖昧で、明確に区別できない部分があります。)
なぜ先人は、わざわざ数式を作ったのでしょうか?
主な理由は、数式を用いると身の回りの自然現象を記述できるということです。数式が無ければ、文明の発展もありえませんでした。
私達が当たり前のように使っている「1」や「+」すらも、カオスな自然界に秩序を持たせるために生まれたのです。
また、数式は抽象的でとりとめのない思考を皆と共有するのに役立ちます。
ここでさっきの質問の答えが見えてきます。
それは、「国語も英語も数学も、自分の思考を他人に伝えるために発展した」ということです。
そこで仮に、「自己の思考を他者に伝える手段」を「言語」と呼ぶことにします。
するとこんなふうな気づきが出てきます。
理科を勉強することは、数学より具体性のある自然現象を言葉で定義し、その現象の記述に数式を用いて考えることだと言えますね。
例えば、化学の浸透圧は、
2つの濃度が異なる液体が半透膜(水は通しますが、水に溶けている砂糖などの分子は通さない膜)を介して隣り合った時に、濃度を一定に保とうとして水分が濃度の薄い側から濃い側に移動する圧力
という定義ですね。
(この定義の理解がものすごく重要)
すると理科も同様に、得体のしれないカオスを、他者と容易に共有できる事象にするという点で、言語能力を拡張していく行為と言えそうです。
全く同様に、社会を勉強するということは、人間の集合を多面的、学問的に考察することと言えますね。
例えば、日本史の「本能寺の変」とは、
本能寺に滞在中の織田信長を、家臣の明智光秀が突如謀反を起こして襲撃した事件
です。他者と議論できる概念にするという点で、言語能力を拡張していく行為にほかなりません。
言いたいことをまとめると、この世のすべての勉強は皆さんが社会の成員として他者と相互作用し、より有意義な人生を送るためにあります。
そのため、勉強自体が「言語」に精通していく過程と言えるのです。
論理的思考とは
次に「論理的思考」について考えましょう。
皆さんは「論理」と聞くと、何を思いますか?
「難しそうな数学の話かな」、「才能を要することだから関係ないや」と思うかもしれません。
しかし、ここで言う「論理」はそのようないかめしいものではなく、皆さんが日常で使っているものです。
例えば、友達との会話で相手の話が具体的な話ばかりで、要点が何なのかわからないとき、皆さんは何と言うでしょうか?
おそらく、「それつまりはどういうこと?」、「結局何が言いたいの?」と返しますよね。
逆に、相手の話が映像化しにくい抽象的な議論なら、皆さんは何と言うでしょうか?おそらく、「実際にはどういう感じ?」、「もっと日常に置き換えてよ」と返しますよね。
このように日常の会話では、抽象度の上げ下げが自然と行われています。
このような具体例を挙げれば、きりがありません。なぜなら、私たちの普段のコミュニケーションで、論理を使わない瞬間はないからです。
言葉を断片的に捉えるのでなく、ある言葉と他の言葉がどのように繋がり合っているか捉えることで、初めて意思疎通が円滑になるのです。
それで何なんだと思うかもしれませんが、実は「論理的思考」は教科を問わず不可欠な力です。
なぜなら、もし皆さんの論理が破綻していると、「自分の意見を正確に相手に伝えること」も、「相手の意見を正確に受け取ること」も困難が伴うからです。
そうなると、当然ながら試験問題は自分の言葉で表現する問題と相手の言葉を正確にくみ取る問題がほとんどなので、解答に支障をきたしてしまいます。
ここまでが僕の解釈の説明でした。何言ってるかわからなかった人も居ると思いますが、全く構いません。あくまで、これは個人の解釈です。
チンプンカンプンだった人は、勉強の経験値が上がったときにもう一度読んで見てください。何かしら新しい発見があると思います。(そう願っています。)
学力を飛躍的に向上させる具体的な勉強法
それでは、ここからは具体的な勉強法について考えましょう。ここまでの話を踏まえると、私が皆さんに身に着けてほしいのは、「論理的思考を鍛えつつ、言語能力を拡張できる」方法というふうにまとめられます。
さて、一般に東大に合格するには、英単語4000個、古典単語500個、数学の公式や定石500個、理科の暗記事項500個を覚えなければいけないと言われます。
多くの受験生にとって、これは非現実的な数字に思えるでしょう。しかし実際に私は、受験直前にこれ以上の知識を記憶していました。
別に単語帳を何十冊も使ったわけでも、暗記カードを毎日見ていたわけでもありません。実は、先程の「論理」の話と同じで、ものを記憶するコツは日常に隠れています。
ここでは、2つの方法をお話しします。
① 知識を関連づける
まず、私達が通常知らなかったものを知るときは、必ず未知の情報が、すでに知っている既知の情報と結びついて理解されます。
例えば、英語の言葉を最初に学ぶとき、私達は日本語の意味と照らし合わせていますよね?
(そう言うと、幼児はどうやって母語を体得するのか疑問に思う方もいると思います。幼児が母語を身につける場合は、言葉が使われている文脈から意味を理解していきます。つまりもともと言葉の意味を知らなくても、五感から知り得た様々な情報をもとに、言葉を理解していくのです。)
まとめると、知識を得る方法はバラバラの状態の情報を、相互に関連付けていくことしかないのです。
あとは、その繋がりがどれほど強いかの問題です。
丸暗記した次の日に前日の勉強を思い出せない経験をした人は多いと思いますが、これはその繋がりが非常に弱かったということになります。
それでは、「関連付け」について考えていきましょう。
まず、関連付けは主に2つの方法があります。
1つ目は、ゴロ合わせのように、全く関係のない事物を関連付ける方法です。
例えば、古文単語「むすぶ」(意味:手のひらを合わせてすくう)を、「ムースぶっかけ手ですくう」と覚えるのが、これにあたります。
「ムース」と「むすぶ」には何の関係もありませんが、「ムースを大量にかけたあと、手ですくう」という情景が頭に残り、古文単語の意味が覚えられるというものです。
2つ目は、論理的な視点から事物同士に関連性を見出す方法です。
例えば、英単語を語源から覚えるなどがこれに該当します。
具体例を挙げましょう。
uniは「一つ」という意味の英語の接頭辞です。これを知っていると、
・unite…「つなげる、一つに統合する」
・universe…「(この世に一つだけの)宇宙」
・unique…「ただ一つの」
これらの3つの単語の根幹の意味は「一つ」であると理解できます。すると、バラバラに記憶されていた単語が共通のグループにくくられて記憶されます。
これでもう、皆さんはこの3つの単語が忘れにくくなったはずです。
さらに、これからuniがつく未知の単語が出てきても、その意味が推測できるようになったはずです。
私は二番目の関連付けのほうが好きです。
その理由は、二番目の関連付けをすると、全体を見た時の、その知識の位置付けを理解し、知識を主体的に運用できる状態にできるからです。
(上記の具体例を考えてもらえばわかると思います)
これができると、知識同士が結びついて強固になっているので、丸暗記するよりはるかに忘れにくいです。
また、複数の事物の間に論理的連関を見つける癖がつくので、論理的思考力を鍛えることができます。ピンと来ないかもしれないので、具体的に説明します。
高校化学に化学結合という概念があります。化学結合は主に、三つの種類に分けられて説明されます。それぞれ金属結合、共有結合、イオン結合といいます。
これらの概念をきちんと理解し、さらに関連する暗記事項を覚えようとするとき、どのように記憶すれば一番効率がいいでしょうか。
私は『電子の挙動を理解する』ことが最も効率的だと思います。
どういうことかといいますと、化学結合の定義は原子やイオンが電子を介して形成する結合なので、その本質を意識すれば、三つの化学結合の違いは電子が異なる状態にあるというだけなのです。
例えば、金属結合は、電子を放出しやすい金属元素(全て常温で金属である)が、同種類の元素とつながるとき、陽イオンと自由電子に分かれ、配列した陽イオンの間を自由電子が自由に動き回ることで形成されます。電子が自由に動き回るので、金属は光をよく反射し、たたいたり曲げたりしても、電子が陽イオンのつながりを保って、破れたりちぎれたりしないのです。
ほかの結合についても、電子の状態に注目することで、なぜその結合が形成されるのか、その結合が形成されると結晶はどんな性質を持つのか体系的に理解しできると思います。
ちなみに、東京大学の山内晶之先生はこうおっしゃっています。
当人の血となり肉とならず身につかない知識は教養とは呼べない。個別の知識の集積や記憶をどれだけ重ねても、教養と呼ぶことはできないのだ。
先ほど述べたように、知識を繋げるためには、なにかしらの論理を使わざるを得ません。
と言っても、論理に決まった型があるわけではありません。その場その場で、
結局これらの情報はどんな関係があるのだろうか?
と考えるようにしましょう。論理を使う訓練を積み上げることで、皆さんの言語の論理性は飛躍的に上がるでしょう。
知識を繋がるための論理のパターン
以下、私が主に意識して使っていた論理を紹介します。
- 原因と結果の関係
- 抽象と具体の関係
- 共通項で結ばれる関係
繰り返しますが、これらはあくまでも一例です。皆さんは自分の頭で考えて、好きなように知識の体系を形作ってください。
② 能動的な言語能力と受動的な言語能力を磨く
二つ目は、能動的な言語能力と受動的な言語能力を磨くことです。
能動的な能力を磨くとは、自己の観念を、論理と適切な『言語』表現を用いて相手に正確に伝える訓練をすることを指しています。
対して、受動的な能力を磨くとは、相手の観念を、提示された論理と『言語』表現をくみ取って正確に受け取る訓練をするということを指します。
ここまで読んでもらっていればわかると思いますが、この二つの能力は受験勉強を超えて、私たちがよりよくコミュニケーションするために不可欠なものです。
よって、日常の言葉遣いを接続詞、具体例を増やすことで論理的にしてみる、相手の主張の整合性を評価してみるなど、普段の生活に取り入れてほしいところです。この二つはそれほどに人間として基本的な能力です。
入試の意味
それが本当に入試に役立つのか疑問に思われる方もいるでしょう。
では、そもそも入試とは何なのでしょうか?
結論から申しますと、入試とは「教授と生徒とのキャッチボール」です。
教授側には「こういう生徒にうちの大学で研究してほしい」という願望があります。大学はそれを「アドミッションポリシー」として発表しています。そして、入試問題は大学のアドミッションポリシーにそぐわない生徒を振るい落とすように作られています。
よって、皆さんは教授の要望に沿って、自分の解答を、教授が想定している模範解答に近づける努力をしなければならないのです。
このことを前提として、どの受験生にも言えることがあります。それは、論理的に無茶苦茶な解答をする生徒を教授は欲しがらないということです。
大学はあくまで、理性的な研究を行う場所です。その大学において、論理性に欠ける人物が、科学的手法を用いて、未知の学問領域を探求できるとは考えにくいですよね。
ですから皆さんは
「どうすれば自分の意見が相手に伝わるのだろうか」
「相手は今どういうことを言っているのだろうか」
を考える訓練をしてください。
オススメする参考書、問題集
いきなり質問します。参考書はなんのためにあるのでしょうか?
答えはもちろん、皆さんの学力向上のため、もっと言えば、志望する大学に合格するためです。
なぜここでこのような話をしたかというと、皆さんに僕の意見を鵜呑みにして欲しくないからです。
僕がイチオシする参考書より、皆さんの学力が向上する参考書のほうがいいに決まってます!
僕がお気に入りだった参考書より、皆さんが好きになった参考書のほうがやる気が続くに決まっています!
ですから、あくまでこの記事は僕の意見として受け取り、今の自分に何が足りないか考えてください。そして、書店で実際に読んだ上で、本当に買うべき参考書か見極めて下さい。
①小論文を学ぶ〜知の構築〜
評論を読んでいて、いわゆる「現代文単語」に出会うとき、皆さんは何を思うでしょう。
単語の意味がわからない人は、評論を読むことが暗号解読のように感じられ、読む気が失せてくることでしょう。
一方で、現代文単語集を仕上げた人の中には、その単語の意味はかろうじて分かるけど、その言葉と筆者の繰り出す複数の概念との関連性が掴めず曖昧な読み方をしてしまい、的はずれな解答をしてしまうこともあるでしょう。
(概念とは、事柄の内容を明確にする意味を指します。)
英語の難しい文章にも、小論文の課題文にも、このような単語は頻出です。こと小論文においては、そういう単語で主体的に表現することが求められるので、より厳密な理解が必要になります。
実は入試で取り上げられるような概念は、それぞれが独立して生み出されたわけではありません。
20世紀の大戦や気候変動に直面した人類は、近代的思考から新しい思考への転換を余儀なくされました。この参考書は、その近代概念と現代概念の関係性を体系的にまとめた、他に類を見ない画期的な書です。
ここで、「体系的」とは概念全体を見渡したとき、それらの位置が、明瞭にわかる状態のことをいいます。つまり、「分析主義」や、「エコロジー」などの概念がバラバラに説明されているのではなく、概念がどういう背景で生まれ、他の概念とどのような関係にあるか理解できるように解説してくれています。
本書は
第一部「論文の基本的な作り方」
第二部「20世紀的知の構造」
第三部「実践的問題演習」
の3部構成をとっています。
第一部では、論文の読み書きの技術論を解説しています。論文と聞くと難しそうに思うかもしれませんが、皆さんが大学に進学される限り、論文の読み書きは避けては通れません。ですから、この章の理解は大学の勉強にもつながると思います。
第二部では、前述した「近代概念と現代概念の相克」を解説してくれています。
第三部では、名前の通り、入試過去問の過去問の解答、解説からなっています。小論文を受ける人はぜひ自分の力で解いてから、解答を熟読してみてください。様々な発見があると思います。
②栗原の古文単語教室
「苦痛なく、必要最低限の単語を覚える」ことをコンセプトに、重要古文単語の意味を体系的に説明した書です。こじつけや語呂合わせではなく、日本語の派生を本格的に教えてくれるので、なぜその単語がこの意味を帯びるのか納得いくはずです。
実は私は、最初にゴロで覚える単語集を使いましたが、何回も繰り返し見ないといけない上に、模試で変な間違いを繰り返していました。例えば、古語の「むすぶ」は現代語の「(液体を)すくう」と言う意味です。しかし、私は語呂合わせで、「ムースぶ(むすぶ)っかけ手ですくう」と覚えたので、試験で「ぶっかける」と訳してしまいました。(恥ずかし〜)
語呂合わせやこじつけを否定するわけではありませんが、私の場合は、なぜそうなるのか理解していない知識だからすぐ忘れてしまい、結局何回見ても覚えられない負のスパイラルにハマってしまいました。
本書では、
・第一章、第二章で「現代語になるとき意味が大きく変わってしまった言葉たち」
・第三章で「現代語になるとき形態が大きく変わってしまった言葉たち」
・第四章で「現代語に残っていない言葉たち」
をそれぞれ解説してくれています。
こんなふうに、僕たちの母語がどういうふうに変遷したか区分けできるって面白くないですか?
それに加えて、栗原氏の「古文は歴史的系統が不明な日本語の謎を、追う鍵である」という言葉でより古文に興味がもてました。
さらにこの本は、別冊の「古典単語集」では本冊で解説した単語を派生した意味の図を見ながら一気に確認できます。
また、索引では単語があいうえお順に列挙されており、重要単語の辞書としても使えます。
また、この参考書では現代語から意味を類推できる単語は掲載せず、覚えるのに解説が必要でかつ入試において暗記が必須な単語だけを抽出しています。それでも見出し語数は370語、収録語数は608語なので、入試のための古文単語はこの参考書だけで十分でしょう。
③現代文と格闘する
この参考書は、現代文単語集やテクニック集を離れ、しっかり文章と向きあって論理的思考力、文章の構成力を鍛えることをテーマに作られています。
第一部「ことばをイメージする」
第二部「文章を読みつなぐ」
第三部「文章と格闘する」
の3部構成をとっています。
第一部では、現代文読解のための概念を言葉同士の繋がりを通して理解することを企図しており、最重要概念を抑えることができます。
しかし、これだけでは概念の量が不十分なので、「小論文を学ぶ〜知の構築〜」で補足するべきでしょう。
第二部では、文章を全体として掴むための「読みつなぎ方」を読者自身が編み出していくために、シンプルな方針を提案してくれています。具体的には、「論理関係に注目する」、「具体部と抽象部を読み分ける」、「キーワード、強調語に注目する」という3つの方針を提示しています。
繰り返すようですが、この参考書は読者に特定の読み方を強制することはありません。あくまで、読者が自分で最適な読み方を発見することを期待しつつ、本質的な軸を明快に論じてくれています。
第三部はこの本の目玉。読者が自分の読み方の問題点を発見できるように、ガイドラインとして一つの「読みつなぎ方」を示してくれています。
評論、小説ともに入試頻出のテーマを網羅した13回の演習で、意味段落ごとの要約、全体の中心論旨、文章全体の200文字要約、また設問個別の対策をまとめた「解法のヒント」、さらに近代概念の変化を解説し、読者の知的好奇心を刺激する「知の扉」というコラムもついています。
それぞれの活用方法は本書に詳しく書かれているので見てみてください。
④入試数学の掌握1,2,3
「入試数学の掌握」(エール出版社)
難易度(難)
第一巻の対象
・旧帝大の数学を得点源にしたい方
・高度な高校数学に興味がある方
・有名な網羅書で一通りの定石を身に着け、さらに数学を得意にしたい方
第二巻、第三巻
・東大、京大、阪大志望者
定期テストや塾のテストだとそこそこの成績なのに、志望校の過去問を目にすると方針すらさっぱり思い浮かばない受験生はたくさんいらっしゃると思います。
私自身、頑張って演習してきたのに、志望校の模試がイマイチで、「自分は頭が悪いのだろうか?」「数学って点数がいつまで経っても安定しない教科なんだろうか?」と思っていました。
当然、こんな調子では、入試本番で満足のいく結果が得られるのか不安になりますよね。
この参考書は、そんな悩める受験生のための一冊です。
この参考書の特徴は、
「入試数学の本来のテーマ別になぜその解法を選ぶのか、解答の一行目までの考察を大切にして、東大、京大、阪大の格調高い問題を、一度説いたことがある人にも意味があるように」解説しています。(本文抜粋)
というものです。
「本来のテーマ」というのは、文部科学省が設定した数列、ベクトルなどの区分けではなく、数学の本質に迫る、分野横断的なカテゴリーのことです。
例えば、一巻目は「全称命題の扱い」と「存在命題の扱い」の2章から構成されています。二つともいかめしい名前ですが、これらは多くの受験生が苦しむ典型問題の、単なる総称です。
前者は「すべての○に対して▲が成り立つことを示せ」、「すべての○に対して▲が成り立つ条件を求めよ」という問題のことを言っています。
後者は「○となる▲が存在することを示せ」、「○のとき▲が存在する条件を求めよ」という問題のことです。
このような捉え方を知っておくと、表面だけの情報に惑わされることなく問題の本質を見抜けるので、解法の指針が明確になります。
問題の年度が古く、旧課程の行列があって複素数平面がないのが玉にキズですが、それでも解く価値のある良書です。
1巻目のすべての問題を仕上げると、証明問題で方針が立たないことがほとんどなくなります。
また、2巻目には学校の先生や予備校の講師が避けがちな通過領域の章があります。この章の解説は、数多ある数学の参考書の中でも最高の内容になっています。
そして、3巻目には幾通りもある方針の中から解法を選択する図形問題について、非常に詳しく解説してくれています。従来の参考書が説明し切ることができなかった、分野横断的なお話をしてくれています。
各巻は「本来のテーマ」の説明、15〜19の例題とその解答、20問以上の練習問題とその解答、数学の基本原理の講義、からなっています。
各問題の考察が非常に丁寧で、ここを読むと、なぜその解法で解けるのか、なぜ他の解法が使えないのかが納得できます。練習問題は対応する例題の復習になる上、常に数学について新しい発見があるように構成されています。また、各問題には解法の本質をまとめた「鉄則」という欄があり、これを完璧に理解すると、類似した問題が解けないことはないでしょう。
ただ気をつけて欲しいのが、扱っている問題が高等なので、ある程度定石を身につけてからこの参考書に手を出してください。そうしないと、丁寧な解説ですら、意味がわからなくなる可能性があります。
この書の役割はあくまで、数学の定石を補足し、体系化することなので、解法の型がわかっている状態で初めて意味を持ちます。
最後に
こんな超長文を最後まで読んでくれてありがとうございました。
皆さんが各人の目標を達成できることを願ってこの文章を締めたいと思います。