この記事の目次
慶應義塾大学 総合政策学部2011年【問い】
問1 資料1 から資料6 を参考にして、君が日本をデザインするとき、1 ) どのような日本を良い日本だと考えますか、2 ) その根拠となる価値観はどのようなものですか、3)実現のためのプロセスと実現のために君自身ができることあるいはしたいこと、の三点を説明してください( 1 から3 の内容を含んで800 字以内、解答欄の枠内であれば、図を挿入してもかまいません)。
問2 問1 の解題の過程で考えた、君の「総合政策学的アプローチ」とは何かを述べてください(600字以内、解答欄の枠内であれば、図を挿入してもかまいません)。
今後大学で4年間一緒に学ぶ中で、君の考え方がどのように変化していくか楽しみです。その感想は、卒業式の祝辞において紹介したいと思います。
慶應義塾大学 総合政策学部2011年【答案例】
問1
日本は、高度経済成長を経て豊かな国となったが、バブル崩壊後の「失われた20年」により、社会に閉塞感が蔓延している。資料2が示すように、日本の競争力は相対的に低下しつつある。この現状を打開し、日本を「良い国」とするためには、国民一人一人が幸福を実感できる社会を目指すべきだ。資料3のブータンのGNHの考え方を参考に、経済的豊かさだけでなく、精神的豊かさや、健康、教育、環境など、包括的な側面からの取り組みが求められる。
この実現には、国民の価値観の転換が不可欠である。資料1にあるように、人間と自然の関係を律する新たな規範の確立が必要だ。これまでの「モノ」の豊かさを追求する価値観から、人と人、人と自然のつながりを重視する価値観への移行が求められる。資料5の指摘通り、一人一人が「善き生活」や「正義」について考え、対話することが重要となる。
具体的なプロセスとしては、資料4が示唆するように、企業経営においては、部分最適から全体最適への転換が求められる。組織の壁を越えた議論と融合を通じて、社会全体の利益につながるイノベーションを生み出していくことが重要だ。加えて、教育においては、資料6の提言のように、「認識科学」と「設計科学」の融合を図り、分野横断的な知の統合を通して、複雑化する社会課題の解決に資する人材の育成を進めるべきである。
私自身にできることは、まず自分の専門分野に閉じこもることなく、他分野の知見に学ぶ謙虚さを持つことだ。その上で、社会の様々な主体と積極的に対話し、互いの価値観を尊重しつつ、より良い社会の実現に向けて協働することが肝要である。大学では、専門知識の修得に加え、倫理観や俯瞰的視野を身につけ、「知」を社会の発展に生かす力を養いたい。一個人の力は小さいが、志を同じくする仲間とともに、日本の未来をより良いものにする一助となれるよう、学びと実践を重ねていく所存である。
問2
総合政策学的アプローチの核心は、複雑な社会課題に対して、特定の学問分野に限定されない広範な知見を動員し、多面的な分析を行うことにある。そのためには、「認識科学」と「設計科学」の融合が不可欠だ。前者が「あるものの探究」を通して客観的な真理を追求するのに対し、後者は「あるべきものの探求」を通して、価値の創出と実現を目指す。両者の知を統合することで、現状の精緻な理解と、望ましい未来像の設計が可能となる。
この融合を実践するには、「物事に対しズームをきかせながらとらえ俯瞰する」ことが重要だ。個別の事象を精査する「ミクロ的視点」と、全体像を把握する「マクロ的視点」を行き来することで、部分と全体の最適化を図ることができる。加えて、異なる専門分野の知見を積極的に取り入れ、多角的な視座から課題に取り組むことが求められる。政策立案においては、定量的なデータ分析に加え、当事者の声に耳を傾ける質的研究も重要となる。これらを有機的に結びつけることで、実効性のある解決策を導き出すことが可能となるのだ。
慶應義塾大学 総合政策学部2011年【解説】
慶應義塾大学総合政策学部の2011年度入学試験の小論文問題は、資料を読み解き、それを踏まえて自分の考えを論理的に展開することが求められる、難易度の高い問題でした。しかし、日頃から社会問題に関心を持ち、多角的な視点から思考する習慣を身につけていれば、必ず答えられる問題です。ここでは、問1と問2の解答のポイントを解説します。
問1
問1は、「良い日本」の姿とそれを実現するための方策について、自分の考えを述べる問題です。まず、資料から日本の現状と課題を読み取ることが重要です。資料2からは、日本の国際競争力の低下が、資料3からは、国民の幸福度の低迷が見て取れます。この現状を打開するには、資料1で述べられているように、人間と自然の関係を見直し、新たな価値観に基づく社会を構築することが必要だと考えられます。
そこで、「良い日本」の姿を描くにあたっては、経済的豊かさのみならず、精神的豊かさ、健康、教育、環境など、多面的な視点からウェルビーイングを追求することが肝要です。資料3で紹介されているブータンのGNHの考え方は、ひとつの参考になるでしょう。ただし、ブータンと日本では国情が大きく異なるため、日本の文脈に即した指標の設計が求められます。
この「良い日本」を実現するためには、国民一人一人の価値観の転換が不可欠です。資料5で言及されているように、「善き生活」や「正義」とは何かを、国民が主体的に考え、対話することが重要です。加えて、資料4の指摘を踏まえれば、企業は部分最適から全体最適へと経営の舵を切り、社会課題の解決に資するイノベーションの創出に取り組むべきでしょう。教育の場においても、資料6で提言されているような「認識科学」と「設計科学」の融合を通じて、複雑な問題に立ち向かう力を備えた人材の育成が急務と言えます。
以上の議論を通じて、読み手には、現状を多角的に分析し、あるべき社会の姿を自分なりに構想することが求められます。その上で、国民、企業、教育機関などの各主体が果たすべき役割についても言及できれば、より説得力のある論述になるでしょう。自らができることについては、抽象論に終始せず、学生の立場で具体的にイメージできることを提案することが重要です。
問2
問2は、問1の解答を通じて考えた「総合政策学的アプローチ」を説明する問題です。ここでは、2つのキーワードに着目したいと思います。ひとつは、資料6で言及されている「認識科学」と「設計科学」の融合です。前者が客観的な事実の探究を通して真理を追求するのに対し、後者は価値の創出と実現を目指すものです。複雑化する現代社会の諸課題に取り組むためには、この2つのアプローチを統合し、現状を精緻に分析した上で、あるべき未来を設計することが不可欠だと言えるでしょう。
もうひとつのキーワードは、資料1で述べられている「俯瞰的な視点」です。物事をミクロな視点で詳細に検討すると同時に、マクロな視座から全体像を把握する。そして、この2つの視点を行き来しながら、部分と全体の最適化を図っていく。これこそが、総合政策学的アプローチの核心と言えます。領域横断的な知の結集と、多角的な視点からの考察を通じて、複雑な社会課題に果敢に立ち向かう。それが総合政策学の真骨頂なのです。
以上の2つの論点を軸に、「認識科学」と「設計科学」の融合、ミクロ的視点とマクロ的視点の往還といった観点から、総合政策学的アプローチの特徴を論じることができれば、説得力のある解答になるでしょう。その際、抽象的な議論に終始するのではなく、具体的な社会問題を例示しながら、総合政策学的アプローチの有効性を論証することが重要です。
総評
小論文の解答では、設問で求められていることを的確に把握し、指定の字数や形式を厳守することが大前提となります。その上で、資料を正確に読み解き、自分の考えを論理的に展開することが求められます。総合政策学部の小論文では、特定の分野に偏ることなく、社会問題を多角的、俯瞰的に捉える姿勢が重要だと言えるでしょう。日頃から、新聞やニュースなどで社会の動きを注視し、自分なりの問題意識を持って深く考える習慣を身につけておくことが、小論文対策の基本と言えます。
社会の複雑化が加速する中、総合政策学の重要性は益々高まっています。変化の激しい時代を生き抜くためには、特定の領域にとらわれない柔軟な思考力と、多様な価値観を受容し、協働する力が欠かせません。総合政策学部での学びを通じて、社会課題の解決に貢献する「知の実践家」へと成長してください。皆さんの健闘を心から祈っています。