慶應SFC小論文 過去問答案例・解説

慶應義塾大学 総合政策学部(2020年) 答案例・詳細解説

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慶應義塾大学 総合政策学部2020年【問い】

いま世界は大きな変動期に突入しています。それは、これまで当然のこととされてきた 前提の多くが、流動化していることに起因しています。直面する問題の多くは従来型の解決を受けつけないものも多く、新たな発想が要求されています。多くの人たちは、民主主義は 大局においては後退しないものと考えてきました。また多様性に対する反発は過去の遺物で、世界は多様性を許容する方向に進んでいると楽観視してきました。技術の進展についても、インターネットを介して人々がつながることが悪いことであるはずはなく、情報のソースの多元化は民主主義の深化につながると信じてきました。しかし、こうした前提を当然視 することができなくなっている状況を前に私たちは戸惑っています。

慶應義塾大学総合政策学部は、問題を発見し、解決することを軸に、教育・研究を実践しています。しかしながら、問題を「発見」はできても、すべての問題を「解決」できるとは限りません。すべての問題にパズルのような「正解」があるとは限らないからです。ある種の問題は、押し寄せる波を上手く乗りこなすようにしか乗り切れない場合もあります。また問題そのものが何かを特定することに大きな困難を伴う場合も想定できます。こうした 「不確実性」は、世界が流動化している状況の中で高まっているとさえいえます。

総合政策学部は、そうした状況に向き合った時、その状況をどう概念化し、その状況に どう働きかけ、最終的には問題状況をどう克服し、さらに次の問題が発生することを予測しつつ迂回する、そういう態度と思考を身につけていく場です。問題発見、そして解決という 不断のループの中で、自分が担える役割を模索していく場ともいえます。

問題の後にある資料は、いずれも現代の世界が直面する問題状況について論じたものです。それはいずれも楽観的な世界観を退けるもので、「こうなるはずではなかった」という失望感や危機感が強く現れています。問題はそれぞれ個別ですが、相互に繋がりを有しています。その繋がりを意識しながら資料を読み、問題に答えてください。題材は、気が滅入ってしまうものが多いですが、すべては事象をリアルに認識することからはじまります。

【問題】

(1)資料1と資料2は現在進行している民主主義の後退が、一過性の出来事ではない可能性について論じています(図表1も参照)。その他の資料で論じられているのは、それを引き起こしていると見られる、いま世界が直面する「歪み」です。なぜ「民主主義の後退」と呼ばれるような事態が、いま世界的に起きているのか、資料1~5を関連づけながら400字以内で論じてください。

(2)資料3は、「日本の政策に賛成するかどうかは別にして」と断っているにもかかわらず、事実上、閉鎖的な国家のあり方を肯定しているようにも読めます。日本は世界 が直面している多様性の問題にまだ本格的に向き合っているとはいえません。日本は、これから多様性が提起する問題に向き合いながら、開かれた共同体を形づくることができるのか、図表2、3、4のデータを参考にしつつ、200字以内で論じてください。

(3)資料4では「民主主義はテクノロジーに合わせて設計はされていない。これは誰の落ち度でもない」と明言しています。それははたして正しいのでしょうか。ソーシ ャル・メディアが公共空間のあり方をどのように変容させたのかを、資料5で論じ ている情報伝播の特性を踏まえつつ、200字以内で論じてください。その際に、公共空間とは何かを自分なりに定義してから議論をすすめてください。

(4)いずれの資料も民主主義が危機的状況にあることを論じていますが、資料5を除けば英語圏の資料であり、日本の状況にそのままでは当てはまりません。各資料を日本に引きつけて読み直した場合、日本の民主主義の状況をどう診断できるか、400字以内で論じてください。

慶應義塾大学 総合政策学部2020年【答案例】

問1

民主主義の後退は、近年の世界情勢の不安定化が背景にある。二度の大戦から世界は欧米の先進国が主導して復興の道を歩み、そしてその国々は民主主義の強いイデオローグとして機能した。しかし近年中国やロシアの反民主主義的な勢力の台頭や、資本主義経済の失敗による福祉国家への不信感から、その絶対的なパワーバランスが崩れ、民主主義を脅かしている。このことは、資料1のデータにも表れている。2008年まで自由でないとされる国の割合は減少していたが、その10年後である2018年には増加に転じている。つまり、ここ10年で民主主義は後退しているのである。2008年に起こったリーマンショックの影響も見て取れるだろう。加えて、民主主義の担い手である大衆の性質の変化も影響している。ソーシャルメディアの普及によって、人々は煽情的な情報に振り回されるようになった。国家間と国家内の両面での変容が民主主義を脅かしているのである。(388字)

問2

日本は現在多様性が提起する問題に向き合いながら、開かれた共同体を形作るのは難しい。なぜなら、島国という土地性からなる日本はEU各国より排他的な国民性を有しているからである。しかし、形作る努力の必要性に迫られている。なぜなら、図表2に明確に表れていように日本は少子高齢化と人口減少が進み、外国からの労働力を補填する必要があるからである。日本が豊かであり続けるためには開かれた共同体の形成が不可欠である。(199字)

問3

公共空間を民衆と統治者によって構成される政治的空間と定義する。かつて統治者と民衆は一方向かつ不可逆的な支配構図であった。しかし、ソーシャルメディアの普及により民衆から統治者へのチェック機能が働くようになり、双方向的な構図へと変化し、民主主義の在り方が変容した。しかしオルテガが指摘したように、民衆の誰もが責任を持ち得ないこの構図は容易に誤情報にふりまわされ得る性質故に、危険性を帯びている。(195字)

問4

日本の民主主義は危機的状況にある。確かに、現在日本では各資料に指摘されるような大衆主義的な政治を行う人物が行政の最高権力を握ることや、大規模な政治的フェイクニュースの拡散は比較的少ないと言え、民主主義が保たれているかのように見える。しかし、それでも前述のように言えるのは、日本人の政治に対する無関心故である。民衆から統治者への投票という政治的干渉という監視の欠落は、民主主義のチェックアンドバランスの維持が困難になるのである。資料2でも指摘されている通り、政治に対する無力感や無関心はやがて今まで培ってきた団結力と弾力性を強めてきた国際協調体制に亀裂を与え、社会の分断を引き起こしうる。資料4のように、民主主義は緩慢で絶えず検討を重ねることで維持されていくものなのである。日本は、民主主義はこのまま未来まで守られていくという楽観を捨て、自分たちがおかれている状況を直視しなければならない。(394字)

慶應義塾大学 総合政策学部2020年【解説】

資料の要約

各資料の要約は、以下の通りです。SFC小論文のみならず、受験小論文では用意された資料の内容を理解した上で、回答を作成することが求められます。普段の学習でも、資料の要約を意識的に取り組むようにしましょう。

資料1

オルテガ的主張→民主主義は民衆そのものによって危機に陥っている。そしてよりマクロな視点に立てば、世界情勢の乱れが民主主義を脅かす勢力の跋扈を許している。

資料2

資本主義経済の失敗とそれによる福祉国家への不信感が民主主義を脅かしている。失敗の中でも重大なのが、機会の平等の喪失である。

資料3

移民流入による価値観の多様化を国として認めること(=多文化主義)の難しさ

(疑問点)多元主義についての定義がない

資料4

アナログな民主主義とテクノロジーのギャップが、人の部族主義的傾向を刺激し、テクノロジーの発達によってその傾向に拍車がかかっている。

資料5

echo chamberとfilter bubbleを持つSNSの民主主義衰退への責任、そして資本主義の過剰についての批判

それでは、次に各設問の解説を進めていきます。

問1

やや易

(1)なぜ「民主主義の後退」と呼ばれるような事態が、今世界的に起きているのか、資料1~5を関連付けながら400字以内で論じてください。

問1は各資料を読み取り、全体の要約を求められている設問です。

ここで注意したいのは、要約とは単に各資料の内容の一部をそれぞれ抜き出して接合することではない、ということです。

全体の資料を読み取り、試験作成者は主題として何を聞きたいのかを理解することです。

今回の問題は、「民主主義の後退」がテーマであり比較的平易に理解できるものでした。各資料を根拠としながら要約していけば問題なく解ける問題でしょう。

問2

日本は開かれた共同体を作ることができるのか、図表2、3、4のデータを参考にしつつ、200字以内で論じてください。

「論ぜよ」と聞かれている設問ですので、開かれた共同体を作ることはできる/できないというどちらか一方の立場をとっても良いですし、私の答案のように2つの立場を支持してもよいですが、それを支える論拠を明示しなければなりません

200字という指定からわかる通り、その設問は意見の完全性や特異性というよりも、むしろ簡潔にまとめる能力を問われています。筆者は、日本の人口状況を示した資料に絞って言及しました。

問3

標準

ソーシャルメディアが公共空間の在り方をどのように変容させたのかを資料5で論じている情報伝播の特性を踏まえつつ、200字以内で論じてください。

設問の前に、「資料4では『民主主義は、テクノロジーにあわせて設計はされていない。これは誰の落ち度でもない』と明言しています。それははたして正しいのでしょうか。

(中略)その際に公共空間とは何かを自分なりに定義してから議論をすすめてください。」という誘導がついています。

ここに注意しましょう。この定義によってその人の個性が出る問題で、SFCに入学してから同級生と「公共空間をどう定義したか」という話題になることがありましたが、三者三様で面白かったです。筆者は統治者と被統治者(つまり民衆)という構図をまず想定し、政治的空間として定義しました。

この問題は「情報伝播」が誰から誰へ向けてなされているのかを、まずは自分で定義することから出発すると良いでしょう。そのうえで筆者は『大衆の反逆』からオルテガを引用し、少なすぎる字数で広がりを持たせるような答案にしました。

受験生の皆さんも、自分が影響を受けた本などを引用して述べてみるということを、一つの表現として参考にしてみてください。

問4

やや易

各資料を日本に引きつけて読み直した場合、日本の民主主義の状況をどう診断できるか、400字以内で論じてください。

第四問(最終問題)に設定されている問題ですが、意見発信の問題ではなく、資料の内容をベースに日本の現状について言及するに留まる問題です。

日頃から新聞などで目にする日本の現状を、欧米のそれと比較しながら簡潔に表現すれば問題ないでしょう。資料を引用しつつ日本の民主主義の問題点などを挙げていけば、400字はすぐに埋まると思います。

総評

今年の問題は、日本の民主主義が危機的状況にあるという強いメッセージのもと、やや誘導色の強い問題でした。したがって、意見発信能力というよりはむしろ要約能力、すなわち簡潔にまとめる能力を求められたと言えます。

過去問を自分で解き、それを添削してもらいながら練習していれば問題なく解ける易問が目立ちました。

以下の3ステップを意識して答案を作成すると良いでしょう。

  1. まずは各資料を2~3行で要約して全体像を把握する
  2. 次に設問で問われていることは何かを見抜く
  3. 最後に適切に資料を引用しながら簡潔にまとめる

また、簡潔にまとめるためには序論・本論・結論という構造を意識することが有効です。そのための練習を過去問や「小論文のトリセツ」を利用して積んでいくと良いと思います。

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ABOUT ME
Hika
慶應義塾大学総合政策学部2020年入学 英語・小論文受験で合格しました。高校生の時の得意科目は現代文と英語で、大学に入学した現在は哲学と短歌に興味があります。SFCを目指す皆様に少しでも役立つ情報を発信していけたらと思います!

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