小論文のノウハウ

近代の知 – ネットワークという考え方について【小論文読解講座#10】

小論文読解講座10

こんにちは。慶應義塾大学総合政策学部2019年度入学のHiroです。

今回はネットワークという考え方について話していきたいと思います。

慶應SFCインテンシブコース

はじめに

今回話すネットワークという考え方は、官僚制的な組織とは対比の関係になります。前回の記事において、近代的主体や実存という言葉は実際の小論文入試においては直接的な記述がないことが多いという話をしましたが、官僚制やネットワークという考え方については、直接の記述があることが多いです。

この小論文読解講座は、近代に関する知識を中心とした教養の土台を作り上げることで、大学入試の小論文の課題文を正しく読解できるようになることを目的としていますが、これらの知識は小論文の論述にも使うことができます。そのためにもしっかりと本質を理解して、人に説明できるくらいにまで落とし込んでほしいと思います。

では「どのように論述の中で使っていけばいいのか?」については、過去問演習と同時に進めていきたいと思います。また今回のネットワークの考え方は、主に実存の人間に関する知識がないと理解するのが難しいと思います。なので、実存に関する知識に不安がある人は、もう一度復習するか、または自身のノートやメモを手元に置きながら、今回の記事を読み進めることをオススメします。

官僚制←―→ネットワーク

冒頭で少し触れましたが、ネットワークの考え方とは官僚制とは対比する考え方です。

官僚制について少しだけおさらいしたいと思います。

官僚制の組織というのは、従属主体により構成される組織でした。官僚制の組織はトップダウンのあり方をとり、メンバーの行動規範が、上層部の人間から末端の人間まで降りてくるものであり、組織の規範に歯向かうことは絶対に許されない。官僚制組織のメンバーは、組織の規範を絶対化し、その規範を超えた他者の他者性に触れることはできず、ゆえに官僚制組織は、組織の規範に新たな側面を組み込むことができず、規範を拡大することができない。

仮に問題が起きたとしても、なかなか規範をアップデートさせることができないため、対応が遅れ、問題が悪化してしまうこともある。そして官僚制の組織の中では、組織のメンバーは交換可能な人間機械の部品として扱われる。こんな感じでした。

官僚制の組織が従属主体・近代的主体の組織であったのに対し、ネットワークは、実存の人間の組織になります。実存の人間の生活をより豊かにすることを目的とした、実存の人間により構成される社会ということになります。

ネットワークの本質

ネットワークの本質

ネットワークは実存の人間により作られるということですが、それについて詳しくみていきたいと思います。

実存の人間とは、ロゴスとパトスの両方を持ち、他者との相互交渉の中で、自身のロゴスを超えた側面(他者の他者性)にパトスで触れ、その側面を自身のロゴスに組み込むことで、自身のロゴスを拡大するあり方=経験を蓄積するあり方をとる、というものでした。

ネットワークは、このような実存の人間の生活を豊かにするものなので、官僚制のように、メンバーが組織の規範に支配され、従属するようなものではありません。ネットワークでは、メンバーは実存の人間として他者との相互交渉の中で他者の他者性に触れ、その規範を超えた側面を組織の規範に「異議」として投げかけることができます

官僚制の組織であれば、規範を超えた側面=マニュアル外の側面を「異議」として組織に投げかけることは絶対に許されません。それに対してネットワークでは、メンバーが自身の相互交渉の中で触れた規範を超えた側面を受け入れようとします。そしてその都度、規範はアップデートされます。それぞれのメンバーが常に規範外の側面を意見としてネットワークに投じ、その側面をメンバーが共有する規範に組み込み続けることで、規範が拡大し続けることを特徴とします

官僚制はトップダウンの考え方で、上から下に規範が降りてきて、下の人間が上に意見することが許されない、完全な縦社会であったのに対し、ネットワークは上下関係がなく、皆が平等に意見を言うことができるため、関係性がフラットであるのです。メンバーみんなが意見を共有し合い、規範を拡大し続けます。

ネットワークの利点

ネットワークの利点は、実存の人間の利点と同じです。規範の拡大というのが大きなメリットになります。個々のメンバーが、それぞれの相互交渉の中で触れた他者の他者性を組み込み続けることで、ネットワークの規範は拡大していきます。そのため、官僚制の組織のように既存の規範に固執するのではなく、常に規範をより良いものにアップデートしていくので、問題が生じたとしてもすぐに対処することができます

またネットワークの中のメンバーは、他人の経験値を共有することができます。そもそも経験値とは、実存の人間が他者との相互交渉の中で、自身の規範を超えた側面に触れ、その側面を自身の規範に組み込み、規範をアップデートすることで、得られるものです。

経験値というのは、本来は人間の主観的な内面世界に蓄積するものですが、ネットワークの中では、メンバーによる主観的な「異議」が認められるので、誰かの主観的な経験知も、メンバー内で共有することが可能です。ただこの「誰かの経験知を共有する」という時に、共有することでメンバーが得られるのは、あくまでも拡大した規範ということです。他人の経験知を自身の経験知にすることはできません。メンバーの経験知を含んだ“規範”であり、経験そのものを自身のものにすることはできません

このことに関しては1997年度の慶応環境情報学部の小論文にて、以下のような記述があります。

知識の生産過程が人間の主観的内面世界での思索に関わるということは、しかしその産物としての知識が個人の主観を超えた客観的存在であることを妨げませんし、・・・

ここでいう知識というのは、実存の人間の経験知に基づいて、情報間に関係性を見出し、自己の中に蓄積されるものとして書かれています。今はよくわからなくて大丈夫です。「知識」と「情報」についてものちに説明したいと思います。

この知識という主観的な経験知を、客観的なものとして他者と共有することができるという話なのです。ネットワーク内では、誰かの主観的な経験知を含む規範を皆で共有し、またその規範に主観的な経験知を組み込み続けるのです。

ネットワークの考え方はインターネットと相性が良い
ネットワークの考え方は、インターネットとの相性が完璧です。近代において官僚制が重宝されたのは、メディアがテレビやラジオといった一方通行型のものが主流だったからです。一方通行のコミュニケーションしかできなかったので、国民はテレビやラジオから流れてくる情報を内面化して、従属主体化することしかできなかったのです。

現代においてはインターネットが主流になっています。インターネットの特徴は、なんといっても「対話性」です。誰もが自由に発言できる。だからこそ、ネットワークの考え方が枠組みとしては最適なのです。技術の発展により、実存の人間が、自身の生活の中で自己の中に形成した経験知を、インターネットを通じて他者と共有することはかなり容易になりました。

今までネットワークの難点としては、常にアップデートされる規範をどのように共有するかということでした。インターネットなしでは、常に最新版に追いつくことが難しかったのです。しかしインターネットの登場により、規範の共有に対するハードルが一気に下がったので、このネットワークという考え方が、人間社会に対する考え方の主流になりつつあるのです。

ネットワークのまとめ

ネットワークについてまとめると以下のようになります。

ネットワークの特徴まとめ

①ネットワークは実存の人間により構成されており、共有する規範を超えた側面をメンバーみんなで組み込み続け、規範を常にアップデートし続ける

②官僚制的な組織とは異なり、上下関係は存在せず、メンバーみんなが意見を発信できる

③インターネットの対話性と結びつくことで、真価を発揮する

最後に

今回は以上になります。

いかがだったでしょうか。この官僚制とネットワークの対比は、小論文入試ではかなりよく出題されます。課題文の中ではこれらの考え方を知っている前提で書かれているので、入試本番で初見で挑むのは無理があるように思います。なので、これらの知識は必須なので確実に抑えていただきたいと思います。

また、冒頭でお伝えしましたが、ネットワーク的な考え方は、課題文読解だけでなく論述にも使うことができます。次回は実際の過去問を解いていただきたいと思います。その中で、実際に僕の解答例を使って説明するので、どのように近代の知識を使えば良いのかを学んでほしいと思います。

ネットワークの考え方は、課題文読解よりも論述において使える知識だと思います。課題文の中では、「官僚制のあり方が良くない」という主張が多いので、「官僚制をやめて、ネットワークに変えていくべき」というように使うことができます。

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次回は「小論文読解講座 過去問演習 第1回」について話していきたいと思います。

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ABOUT ME
Hiro
慶應義塾大学総合政策学部1年。1年間の浪人を経て、英語・小論文受験で合格しました。通っている学部はSFCですが、本キャンの受験経験があるので、本キャンの小論文の解答解説をメインで書いてます!

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