過去問答案例・解説

慶應義塾大学 総合政策学部(2016年) 答案例・詳細解説

慶應義塾大学 総合政策学部2016

小論文マスタープログラム

慶應義塾大学 総合政策学部2016年【問い】

慶應義塾大学総合政策学部では、社会で生じている問題を、特定の学問分野の枠組みにとらわれず、分野融合的な視点から分析することに重点をおいた教育・研究活動を行っています。この問題では、総合政策学部に入学した後に、あなた自身がどのように研究を進めていくのかを具体的にイメージしてもらうことを期待しています。

近年、頻繁に新聞やテレビなどでも取り上げられる所得や社会階層の「格差」について考えてみることにしましょう。下記の資料1~6は、社会科学の分析手法を用いて、国際比較・職業の世代間移動・高齢化という視点から「格差」を分析した文献や資料です。資料を簡単に紹介すると、

①国際比較
資料1は、経済学者の橘木俊詔の『日本の経済格差一所得と資産から考えるー』(1998年) なからの抜粋です。資料1は米国をはじめとする諸外国と、日本の所得格差を比較しています。資料2は、フランスの経済学者のトマ・ピケティの『21世紀の資本』(2014年)からの抜粋です。ピケティは独自に資産や所得に関するデータを収集・分析し、格差の国際比較を行っています。

②職業の世代間移動
資料3は社会学者の佐藤俊樹の『不平等社会日本一さよなら総中流』(2000年)からの抜粋です。佐藤は、親の職業と子どもの職業の関係を「職業の世代間移動」と呼び、それがどのように変化してきたかを分析しています。資料4は、同じく社会学者の石田浩と三輪哲の「上層ホワイトカラーの再生産」(『現代の階層社会[ 2 ]一階層と移動の構造-』(2011年)の第2章)からの抜粋であり、「職業の世代間移動」を佐藤と同様の手法で分析しています。

③高齢化
資料5は、資料1と同じ橘木俊詔の『日本の経済格差一所得と資産から考えるー』(1985年)からの抜粋です。資料5は高齢化が日本の所得分配の不平等に与えた影響を議論しています。資料6は、経済学者の大竹文雄の「日本の不平等一格差社会の幻想と未来―」(2005年)からの抜粋です。大竹もまた人口高齢化と所得格差の拡大の関係について論じています。

資料1~6を読んで、次の問いに答えなさい。

間1
格差について論じた3つの視点-①国際比較、②職業の世代間移動、③高齢化-のうち1つを選んで、回答欄にその番号を記入し、その番号に該当する2つの資料をそれぞれ200字以内で要約しなさい。

問2
あなたが問1で選択した資料は、同じ視点で分析しているにもかかわらず、異なる結論に至っています。その理由を300字以内でまとめなさい。

問3
あなたが2016年4月に総合政策学部に入学したとすれば、2020 年頃に卒業することになるでしょう。2020年に、日本の「格差」はどうなっていると予想しますか。特に①国際比較、②職業の世代間移動、③高齢化という3つの視点で見たときの変化をすべて予想して下さい。そして、あなたの予想をより説得的なものにするために、あなたが総合政策学部に入学後、どのような調査や分析が必要になるかということもあわせて、600字以内で記述しなさい。

慶應義塾大学 総合政策学部2016年【答案例】

問1

①国際比較
<資料1の要約>
資料1では、所得分配の不平等度を表す指標としてジニ係数を用いて、先進諸国における日本の不平等度合いを比較している。ジニ係数は、家計所得に注目している点で比較可能性が高い特徴がある。その結果、日本は1980年から1992年の約10年間で、他国と比較して不平等度が急上昇していることが読み取れる。日本の所得分配の不平等度合いは、資本主義国の中で貧富の差が大きいイメージでとらえられているアメリカよりも高いことが分かる。(200文字)

<資料2の要約>
資料2では、格差の多様な様相と格差のメカニズムを区別して分析するため、所得分配の格差を分析する指標として、総所得、すなわち国富におけるトップ千分位の国民所得シェアの分布表を用いている。その結果、アメリカでは直近数十年でトップ千分位のシェアが2%から10%近くに増加しているが、日本では1.5%から2.5%と約2倍となっており、日本はアメリカほどの顕著な所得格差は存在していないことが分かる。(190文字)

問2

資料1では労働所得に焦点を当てて各国の格差を調査比較していることに対して、資料2では労働所得だけでなく資本所得も含めた総所得、国富に基づいて格差を分析している。このように、比較の根拠となるデータの調査、算出方法が異なるため、異なる結論に至っていると考える。
具体的には、資料1では日本の格差は先進諸国の中でも大きいと評価できるが、資料2では日本の格差は小さいと評価できる。この背景には、不動産や金融市場を介した投資活動の規模の大きさが、先進諸国に対して日本は停滞しており、そのため資本所得格差が相対的に広がっていないと言えるのではないだろうか。(271文字)

問3

 労働所得に加えて資本所得を考慮に入れた場合、2020年の日本の格差は、現状と比較して、国際比較では変わらず、職業の世代間移動の観点では開放的になり、また高齢化の視点では高齢層の年齢別不平等度はより高くなると考える。
 まず、投資活動が資本所得格差に与える影響を考えた際、日本では金融教育が依然として進んでおらず、4年間という短期間で大きな変化は見込めないだろう。また、終身雇用が実質的に崩壊しつつあり、女性の幹部登用が躍進し、雇用が流動化する状況を鑑みると、一世代前と子供の職業の対数オッズ比は下がり続けると予想する。そして、少子高齢化に伴う年金受給年齢及び正社員の定年の引き上げによって、60歳を超えても稼ぎ続ける労働者とそうでない人の格差が増大するだろう。また、社会保障費の増大により、20〜30代の将来世代への経済的負担は増大する一方だと思われる。
 これらの予想を裏付ける根拠として、当該テーマに関連する定量的データ及び定性的データを取得する。具体的には、定年退職を迎える60歳以上で仕事による収入がある人の割合やその金額、またどのように稼いでいるのかを調査したい。また、40〜50歳代の会社員と20~30歳代の会社員に、それぞれ転職の経験もしくは意向を調査することで、職業の世代間移動の実態を明らかにできる。そして、各年代別に高所得者が占める割合を調査することで、現在世代と将来世代の格差を把握することができるだろう。(600文字)

慶應義塾大学 総合政策学部2016年【解説】

総評

本年度のテーマは、様々な視点で見た「格差」と、その根拠となるデータの集め方、捉え方です。格差自体は小論文での頻出テーマですが、データの捉え方という点がユニークでSFCらしい問題となっており、また難易度を上げています。

資料では、トマ・ピケティ教授の世界的ベストセラーの著書、「21世紀の資本」が引用されています。ポイントとしては、「r > g」、すなわちr(資本収益率)はg(経済成長率)を常に上回るという主張を、膨大なデータ収集を元に実証したという点です。資本収益率とは、「投資や資産運用で生み出されるお金の伸び率」であり、経済成長率とは「労働者の稼ぐお金の伸び率」です。まったく働かなくても、たくさんのお金を投資に回せば、その資本が膨大な収益を生むということですね。

ざっくり言えば、お金持ちの子供はお金持ちで、その格差はなくならない

資本保有は一部の富裕層に偏在しており、また先進国では少子化や人口減少の状況となっています。この資本が将来世代に相続されれば、格差は固定されてしまうのではないかと、ピケティ教授は危惧しているのです。したがって、格差を是正するために資本に対する累進課税を実施して、格差を減らすべきという提言しています。

こういった背景知識があれば答案は比較的書きやすいですが、そうでなくとも十分対応可能です。

SFC小論文において、冒頭の問いは、常に答案作成のための重要なヒントとなります

小論文のトリセツでは何度もお伝えしていますが、問いをサラッと読み飛ばして資料の読解に走るのではなく、まず問いを熟読してください。そして、問いを読んだ時点で、答案の骨子が考えられるようにできるとベストです。

「どのような調査や分析が必要か?」について、問いの冒頭で「総合政策学部では、〜特定の学問分野の枠組みにとらわれず、分野融合的な視点から分析することに重点を置いた教育・研究活動を行っている」と記載があります。そのため、このような学問横断的なアプローチの仕方(問題発見、問題解決)を志す受験生を求めていると考えられます。回答を作成する際の指針となります(問3)。

問1

問2を見据えて、「なぜ資料1と2の結論が異なったのか」に関して、資料内のキーワード(概念)を答案に組み込んで説明できると良いです。

例えば、
 ・資料1…「ジニ係数で所得分配の不平等度を示す」「家計所得に注目」
 ・資料2…「ジニ係数は、労働と資本の格差という全く異なる要素を混ぜ合わせた総合指標」
 といった点です。これらは、問2での回答に直結する(結論が異なる原因)ので、記載することが望ましいです。

なお、要約のコツについては、「慶應SFC合格者が徹底解説!小論文の要約の書き方【図解あり】」の記事も読んでみてください。

問2

資料1は家計所得に注目した総合的な指標(ジニ計数)であるのに対して、資料2は「資本」についても考慮しています。シンプルに言えば、問1が労働力から得られる対価について言及していますが、問2ではそれに加えて資本についても考慮されています。

このように、

比較対象が異なると、得られる結果(アウトプット)も異なってくる

のです。なお、分析とは、「個々のデータが何であるかを明らかにした上で、それぞれの関係性を明らかにすること」であると言えます。

問3

まず、問いの条件、すなわち記述に盛り込むべき論点から確認しましょう

・①国際比較 ②職業の世代間移動 ③高齢化 の3つの視点で見たときの変化をそれぞれ記載する
・あなたが総合政策学部に入学後、どのような調査や分析が必要になるかを記載する

大きく分けると、上記2つです。文字数の目安としては、前者300〜400文字、後者300〜200文字程度で記載すると想定します。すると、前者の「3つの視点」については、それぞれ100文字前後での記述となりますので、シンプルに結論+理由だけ記載する形とならざるを得ないでしょう。

このように、答案用紙を埋め始める前に、問いの条件に基づいて、答案全体の構成を考えることから始めてください

最終段落では、「あなたが総合政策学部に入学後、…」という指定があるので、SFCらしいアプローチでの記述が期待されています。

例えば、政府が発行している各種統計データの調査(統計調査)、遺産相続など資産の世代間移転の各国の法制度の調査(法律)など、経済・会計・政治・法律・統計のように幅広い視点からのアプローチが必要だ、という回答の流れができるとSFCが求める方向性となるでしょう。

ABOUT ME
Kaz
Kaz
高校卒業後1年間浪人し、2005年慶應義塾大学総合政策学部入学、2009年卒業。本サイト「小論文のトリセツ」の管理人です。一見難しい小論文学習の面白さを伝え、大学受験合格に導くため、日々情報発信を行っています。

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